V字回復の裏にコスト管理意識の徹底あり
いすゞ自動車株式会社井田 義則 氏
大幅な増益で純利益1000億円が目前に
財部:
一時は1兆682億円もの有利子負債をかかえ、株価も31円まで売られました。しかし、そこからV字回復を達成し、3期連続の史上最高利益が確実になってきました。いまどんなご心境ですか。
井田:
やるべきことをきちんとやってきたことの成果です。この苦しい3〜4年間を通して社員の意識が少しずつ変わってきた。日本だけでなく世界中の従業員の間で「きちんと働けば道が開けるし、いい会社になるんだ」という認識が浸透してきたように思えます。先日行ってきたアメリカでは、オイルの値段が上がってトラックやクルマの販売が鈍り、今年上半期の売上高も400万ドルと減り、前年から比べて台数もかなり減ったのですが、アメリカのCFO(最高財務責任者)は「大丈夫。コストコントロールをしているから、約束した黒字はちゃんと出る」と言うのですよ。
財部:
販売に関わらず、コストを削減できるようにしているから、約束した以上の利益は出るということですね。
井田:
ええ。弊社の売れ筋商品のピックアップ・トラックは、3リッターから2.5リッターにシフトしていますが、3リッターのほうが2.5リッターよりも利益率が高いですから、クルマが小さくなって利益率が下がった分、ボリュームを増えして回収していく。そういう市況の変化に応じたコスト管理ができているのです。ですから来年は今年よりももっと良くなると確約できますね。
財部:
そうしたコスト管理が社員一人ひとりに定着すると会社も機動的になりますね。
井田:
ええ。特に上層部の間では「自分たちのやるべきことは何か」という責任意識が浸透しているので、新型トラックとディーゼルエンジンのグローバル展開をするという共通目標に向かって邁進しています。
財部:
いすゞは1990年代の初めにも、一度赤字になって、その後一気にV字回復をした時期がありましたね。その当時のV字回復と今回の回復の決定的に違う面というのは何なのでしょうか。
井田:
三カ年計画で大胆に投資に1900億円、返済に1600億円かけると発表しています。優先順位はわかっていますし、何にお金をかけてどういう効果が出るのかが明快にわかっています。ディーゼルエンジンとトラックを「どの市場で」「どうやって」「どういう人的資源をかけて」売るかが明快です。もちろん積極的に投資もしていくけれど、もっと財務内容を良くしようというマインドになってきています。
財部:
社員の意識共有が効を奏してきたのですね。
井田:
借金を早く返して、現在のデット・エクイティ・レシオ(現預金差引後ネット有利子負債の自己資本に対する比率)1.8%を三年以内に1.0%以下にしながら、積極的に投資もしていく。そういった優先順位とバランスをみんなが理解しているのです。「いすゞは良くなってくると、また変なことをやってダメになる」とよく言われるのですが、今回はそういうことはない、と確信しています。
財部:
社員の危機感の共有は、史上最高利益が出てしまうとそうそう長続きはしないものですね。たとえばゴーン改革後の日産自動車の社員と話をすると、おカネの使い方ひとつ見ても緊張感がガラリと変わっているところがあります。
井田:
トップマネジメント自身にそういう心の緩みがあれば、社員はすぐに気がつくし、まわりに飛び火してとんでもないことになるでしょう。私自身は「もう二度と赤字は出さない。仮に赤字になったら、自分も含めて、給料支払わないようにしてでも赤字にはしない」といつも言っているのです。設備投資でも「もう使ってもいいだろう」という甘えは絶対に許しません。
財部:
ムダに予算消化をさせないと・・・。
井田:
理由が明快でないものはぜったいに使わせない、必要がなかったら使わないということを徹底させています。自信を持つのはいいですが、過信は禁物です。私を含めたマネジメント全員が、常にそれを頭に置きながら社員と接し、おかしなことがあったら即座に直していくようにする習慣を絶えず意識しなくてはならないのです。ですから「常に現場を見直していく」という考え方に徹しています。当たり前のことですが、その繰り返しなのです。