財部:
佐藤会長は、経団連サイドでも震災支援に大きく関わっておられますね。社会貢献との関わりで言えば、「1%クラブ」という組織が日本経団連にありますが、これはどういうものですか。
佐藤:
これは「ワンパーセント」クラブと言っているのですが、ぜひ財部さんにも知っていただきたいと思っていました。企業が自主的に、経常利益や可処分所得の1%以上に相当する額を社会貢献に支出しようということで始まったもので、日本経団連の加盟企業にクラブの会員になっていただいています。そこで集めた浄財、あるいは奉仕のエネルギー、いわゆる労働をさまざまな形で社会に提供していこうという活動で、災害対策以外にも自然保護、海外への援助などを行っています。
財部:
メディアにはある種のバイアスがかかっているのかもしれませんが、企業もしくは経団連が、こうした社会貢献事業に取り組んでおられるという等身大の姿が取り上げられることはほとんどありません。私は逆に、こういうことをきちんと報道していくことを、自分の1つのミッションとして取り組んでいきたい、という思いがあります。
佐藤:
ありがとうございます。日本経団連としても一所懸命に広報活動を行っていますが、われわれ自身が広報する一方で、その成果を実際に現場で受け取っていただく、皆さんに「これは経団連が一所懸命にやったんだ」ということを理解していただくことに尽きると思います。そういうところから生まれる口コミのようなものが、企業に対する皆さんの理解を深めていくことをに繋がると期待しています。われわれが「東北の皆さんは凄い」と思うのと同時に、東北の皆さんからも「日本の企業はやはり凄い」と思っていただけるような、お互いのやり取りが生まれてきてくれればと思います。
財部:
そうですね。
佐藤:
(われわれが行っている活動に対して)ある意味で反発もある一方で、非常に喜んでいただいている方もいらっしゃるわけですから、そういう形で実を上げていくしかないのではないでしょうか。その意味で、今回の保険会社の対応で言えば、これだけ早く保険金のお支払いができたという点は特筆すべきところだと思います。損保業界全体で、家財あるいは建物、個人のケガなどに対し、4カ月間ですでに約1兆1200億円をお支払いしていますので、損保業界はそれなりのスピード感をもって対応できたのではないかと考えています。
財部:
これも損保の方に聞いた話ですが、先の2回目の大きな余震が起こったあとに、東北の契約者のお宅を1軒1軒訪ねていくと、「ウチは家が残っているだけ大丈夫だ」「ウチは結構だ」と言って、保険金はいらないと主張する人が随分いたということです。「2回目の余震も立派な地震ですから、お支払いします」と話しても、「本か何かが落ちませんでしたか」と尋ねても、「何の問題もなかった」と言い張るそうです。確か本も、家の場合は家財に相当しますよね。
佐藤:
そうです、家財に相当します。
財部:
だから、無理やりでもお支払いをしないと、契約者の方に「結構だ」と言われてしまうのだそうです。そんな東北の人たちの素晴らしい気質、そして損保業界が今回見せた新たな対応と、なかなか良い話をあちこちで聞くことができました。
佐藤:
そう言っていただくと、今回活躍した代理店の皆さんや社員も本当に嬉しく思ってくれるでしょう。彼らは今、「縁の下の力持ち」のような存在になっていますから、そういうことをマスコミの方に知っていただくだけでも、本当に励みになります。
スーパーの店頭から、各国の中産階級のニーズ・ウォンツが見えてくる
財部:
今度は、佐藤会長のプライベートなお話について伺いたいのですが。事前にお答えいただいたアンケートでは、最初に「趣味、今ハマっていること」は何かをお聞きしていますが、「自転車に乗って東京見物」というのは、どういうお話なのですか。
佐藤:
私は、車に乗るよりも自転車に乗るほうが楽しいと思っています。車も大好きですが、街を見るには車はスピードが出て、細い路地などにも入れません。私は、東京では下町や山の手あたりをつぶさに見たいと思っているので、車なら通り過ぎてしまうようなところでも、自転車はゆっくり走りますから、「こんなところにこういうものがあるのか」という発見がいくらでもあり、これが楽しくて仕方ないのです。たとえば虎ノ門あたりを走っていても、ビル街の中に普通の一軒家がぽつんとあって、それが昔の洋館のような造りになっているというようなところがあります。
財部:
そうなんですか。虎ノ門に事務所があるのですが、まったく気がつきませんでした。
佐藤:
私は池袋で生まれたのですが、池袋という場所は、山の手と下町の境のようなところで、ちょっと南に行くと典型的山の手の目白(東京都新宿区)ですが、北のほうに足を伸ばして巣鴨に行くと本当に下町らしい風景になります。その意味で、自転車で巣鴨から目白あたりに走るだけでも、全然違う街並みになります。
財部:
お1人で走るのですか。
佐藤:
1人です。スピードは出さないのですが、ヘルメットをきちんとかぶり、ズボンはいわゆる普通の綿のパンツです。リュックサックを背負って。。
財部:
自転車に乗られるのは、体を鍛えるというより、むしろ好奇心を満たすためなのですか。
佐藤:
そうです。だからスピードは出しません。東京は坂が多いので自転車では結構苦しく、かなりの体力を使ってしまいますからね。あとは好奇心です。
財部:
一番遠いところで、どのあたりまで行かれるのですか。
佐藤:
向島百花園(東京都墨田区)や堀切菖蒲園(同葛飾区)ですが、あの周辺はとても面白いですね。それから亀戸(同江東区)や深川不動(同江東区)のあたりもいいですし、その意味で下町は楽しいです。山の手では目白、それから渋谷の奥の代官山(同渋谷区)も走りますが、あの近辺は坂が多いですね。とはいえ、それぞれ距離にして往復40キロメートルもありませんから、それほど遠くはありません。
財部:
訪れた先で、何か買ったり食べたりするのですか。
佐藤:
もちろんそうです。月島に行けば1人でもんじゃ焼きを食べます。ヘルメットをかぶって走っていますから、誰もわかりませんよ(笑)。
財部:
私は自転車には乗っていないのですが、海外に取材に行く時、車で現地を回っていると見落としてしまうことも多いのですよね。そこで私が必ずやっているのは、現地の流通、スーパーマーケットを見て回ることです。
佐藤:
全く同じです! 財部さんにそのことをおっしゃっていただいて、私も意を強くしました。私も海外に行くと、デパートやスーパーに行きます。物価がわかるし、今その国で中産階級が何を求めているかがよくわかりますよね。
財部:
わかりますよね。
佐藤:
余談ですが、私は課長になった頃から、海外に行くと子供へのお土産に『レゴ』ブロックを買っていました。『レゴ』は各国の中産階級が買える価格に設定されていて、国によってすべて値段が違います。私が『レゴ』を買ったのも、日本では製品価格がかなり高かったのに、発展途上国に行くと値段が安かったから。そういう『レゴ』価格というものがあるのだなあ、と思いました。
財部:
私の場合、一番印象的だったのは中国・四川省の成都市にあるイトーヨーカドー(成都イトーヨーカ堂有限会社)です。これは、取材先がまさにスーパーマーケットだったのですが、同社では、内陸部で魚介類を売ることの難しさを乗り越えてきたわけです。
佐藤:
コールドチェーンができているわけですね。
財部:
はい。面白いことに、ほとんどイトーヨーカドー1店で、その地域の文化を変えてきているというか、彼らの食生活そのものが、イトーヨーカドーを通じて生魚を食べるというスタイルに変化しているのです。それはテレビの取材でしたが、現地のイトーヨーカドー社員が、「(現地の)皆さんはこんなものまで食べるんですよ」と言って、パックになっている鮨を開け勧められたので、お腹を壊すことを覚悟して食べましたが、それはなかなかおいしいものでした。
佐藤:
そうですか。
財部:
その一方で、現地の料理屋で料理を食べると、やはり川魚が生臭く、また泥臭く、イトーヨーカドーで売っている魚のほうがよほど新鮮です。イトーヨーカドーという店舗が、現地の文化そのものを変えているのは本当に凄いと思いました。
佐藤:
そうですね。中国の方は、生ものを食べるのが嫌いですからね。
財部:
私は比較対照のために、あちこちでスーパーマーケットを訪れていまして、ドバイに行った時にもスーパーに足を運びました。ドバイにはお金持ちが行くスーパーもありますが、中産階級の人々が行くスーパーを訪れた時、日本の野菜や果物が並んでいる特別なコーナーがあったのですが、高級なリンゴやバナナが数個置かれているだけでした。補助金がついたものが形式的に置かれているだけだったんですね。ところが少し離れた果物売り場をパッと見ると、リンゴが山のように積まれていて、そこには「Fuji」と書かれていたんです。「こちらにもあったのか」と思ったら、その「Fuji」は中国からの輸入品だったのです。
このようにスーパーマーケットを見ていくと、その国の人々の生活ぶりだけでなく、その国にどんな国がコミットしているのかも見えてきます。
佐藤:
確かに、ヨーロッパのスーパーなどには、日本語で「南アフリカ産」と書いてあるようなオレンジが並んでいます。おそらく日本の商社を介しての3国間貿易になっているのでしょう。
財部:
そういう意味で、スーパーはなかなか情報量の多い場所ですが、意外と男性はスーパーを見ていません。日頃、足を運んでいないという事情もあるのかもしれません。
佐藤:
はい、日本で行ってないと価格がわかりませんから、私は自転車に乗ってスーパーに行き、結構買い物をしています。荷物をリュックサックに詰め込んで帰ってくればいいのですから(笑)。
財部:
では今度、どこかでお会いするかもしれませんね(笑)。
佐藤:
お会いするかもしれませんね(笑)。