川崎重工業株式会社  代表取締役社長  長谷川 聰 氏
尊敬する人:経営者としては、ジャック・ウェルチ …もっと読む
経営者の素顔へ
photo

新しい技術を生み出しショーウインドウに並べていく

川崎重工業株式会社
代表取締役社長  長谷川 聰 氏

エネルギーをつくることから考える

財部:
損保ジャパンの佐藤会長とはどのようなお付き合いなのでしょうか。

長谷川:
佐藤さんは大学の1年後輩です。私は慶應義塾大学の工学部卒業で、彼は経済学部です。私は中学から慶應なのですが、工学部の仲間だけでなくもっと人の輪を広げたい、また、たまには中学から一緒に来た連中とも話がしたいと思いましてサークルに入りました。もともと旅が好きだったので、環境保護とか古都保存なんかをテーマにしたサークルを選びました。そのサークルに彼が入ってきまして、工学部と経済学部でしたが、いろいろ話をしているうちに親しくなりました。

財部:
スキーをされているということでしたから、スキー部だと思っていました。

長谷川:
はい、スキーは私の別の趣味でして、そのサークルでもスキーには行ったことはありますけど、テーマは自然保護とか環境保護でした。佐藤さんとは2〜3年前くらいからまた良く会うようになりまして、彼は時々こんなことを言うのです。「今、環境破壊に伴って異常気象が増えてきた。その結果引き起こされる損害が保険金の支払いとして大きくのしかかっている」と。私のところはこれからもっと地球環境を維持すべく、製品を作り出していかなければならないという使命を持ってやろうと。そういう意味では我々は随分前から、時代の先読みをしていたのかな、と自画自賛しているんですけどね(笑)。

財部:
学生時代のサークル活動が、いまの川崎重工の方向感に一致してきたのですね。

長谷川:
結果的な話ですけどね。学生時代には問題意識はあったものの、どちらかと言うと議論するための一つの話題としてやっているだけで、それほど高い意識を持ってやっていたわけではなかった。結果的に繋がったと言ったほうが正しいのかなと思っています。

財部:
佐藤さんはおひとりで自転車に乗って東京中を走っているそうですね。

長谷川:
そうみたいですね。

財部:
月島に行って、ひとりでもんじゃ焼きを食べたりしていると聞いて驚いてしまったのですが、そういうお付き合いもあるのですか。

長谷川:
いえ、それはないです。ああいう生活ができるというのは羨ましいなと思います。

財部:
今日は伺いたいことがいくつもあります。1つは環境問題とエネルギーの話です。去年の震災での原発事故以降、電力供給について、集中型から分散型へという議論が出てきました。長谷川社長も随分この点に関してご発言をされています。そこで技術の裏付けを持った分散型のエネルギーのあり方というのはどういうものなのか、ぜひ伺いたいのです。

長谷川:
ああ、そうですか。

財部:
といいますのは、非常に情緒的な「反原発」という感情だけで「分散型だ」となっているのをみますと、実際に太陽光発電がどこまでリアリティがあるのかという技術的な議論が薄く、メガソーラーの話も最近ではコスト的に見合わないということがわかってきました。そのような中で長谷川社長も分散型と言っていますが、そこは具体的にどのようなお考えなのでしょうか。

長谷川:
はい。基本的に言いますと、日本における電力供給は、大規模発電・大量供給ですが、これからは、分散型発電で必要な量を必要な所でつくるのが自然の流れだと思います。経済的に言いましても、遠くから電気を送ると送電する間に大きなロスがありますし。

財部:
送電のロスですね。

長谷川:
はい、5〜10%※くらいが無駄になっているのです。そういう意味から、電力も「地産地消」というのが流れだと思います。先ほどおっしゃった技術の裏づけという意味で言えば、技術的にできないわけではありません。ただ、現行のルールの中では制限があるというのが事実ですね。分散型のコージェネレーションには、発電と同時に熱を活用できるメリットがあり、お客さんのニーズに応じて熱を供給する事も出来ます。そうしますと7割、8割の熱効率になります。大きな火力発電所で天然ガスを燃やすのに比べると、効率が3割ぐらい上がるのです。そういった方向が今後期待されるのではないかと思っています。 ※送電時の電圧を高くするとロスが減るので、一概には言えないが少なくとも5%は無駄になる。

財部:
では、分散型になった時には発電の形態というのは、どういう形が理想的なのでしょうか。

長谷川:
いろいろな要素がありますね。コストの問題もありますし、CO2の問題もあります。発電設備の利用のしやすさなども重要な要素でしょう。そういった選択肢の中からどれを選ぶかという事になります。ですから今、スマートグリッドと言っていますのは、天候が良いときはメガソーラー、曇ってしまったら化石燃料でカバーするなど、多様なエネルギーを持つことで環境変動、負荷変動に対応しながら、お客さんのニーズに合わせて提供するというのが理想的な方向ではないかと思います。

財部:
なるほど。その中で原子力はどう考えますか。

長谷川:
一つのベースロードとして原子力も必要だと思います。昼も夜も負荷変動なしに運転できますから。ただ、現在の国民感情として原子力はなかなか受け入れにくいところもあるのかな、とも思います。