社員の考え方と行動が、「会社の遺伝子」に収斂する
財部:
ところで、アナリストレポートで村田製作所さんについて書かれていましたが、御社の企業文化に強くフォーカスされていましたね。たとえば勤勉であるとか自重心があるとか、誇りを持っているというように。さらにレポートを読んでいくと、そういう企業文化が村田さん個人のイメージと非常に重なるということまで書いてある。ここは村田さんご自身がそこに合わせてきたのか、もともと村田さんがそういう方なのか、あるいはそのように教育されてきたのか、その辺はどうなんでしょうか。
村田:
そうですね、会社の遺伝子というかトップマネージャーの考え方がよく反映されているとレポートに書いていただきましたが、面白い表現だなと思ったのは、ホトトギスの話です。京セラさんは、ホトトギスを100羽ほど捕まえてきて、「どれかが鳴くはずだ」という。ロームさんは、ホトトギスが鳴かなければ、つねったりひねったりして鳴かしてしまう。村田製作所は、これは餌が適切ではないのではないか、温度が違うんじゃないか、湿度が合っていないんじゃないかと、まさにいろんな角度で、科学的条件を考え出して、正攻法でホトトギスを鳴かせてしまう。そこが違うのではないかと書かれていましたが、そんな風に違って見えるのかなと思いましたね(笑)。
財部:
それは、村田さんご自身が持たれている資質なり考え方ですか。
村田:
これは会社の遺伝子ではないでしょうか。
財部:
会社の遺伝子ですか。たしかにアナリストレポートを読んでいくと、創業家の村田家だけのカルチャーというより、会社のコーポレートカルチャーだという結論にもなってくると思います。これは創業時代からずっと、寸分違わず続いてきているものなんでしょうか。ここまで会社が大きくなってくると、いろいろな人が出てくるでしょうし、いろいろな考え方が出てくると思うのですが――。
村田:
マトリックス経営も創業者が導入したわけですし、現場管理についても縦横で割り、関係会社まで通してくる。あるいは製造工程は、各工程ごとに(関係会社が)細かく分担し、それぞれが利益を出すようにさせるという考え方ですね。(関係会社の中でも)もともと大きな規模ではないところは、1工程を専業にしている会社もあるわけです。当然われわれは、それらを繋げたものづくりをしているわけですから、それぞれの工程が利益を出さないとやっていけません。したがって、そこをどんぶり勘定にしていると、どこが問題なのか、どこが儲かってないのかがみえてこない。だから、ああいう細かい管理をし出したということなんですね。
財部:
そうですね。
村田:
それはずっと会社の中で伝わり続けている遺伝子になっています。当社では、海外での売上が全体の75%を占めていますが、海外売上が増えていく中で、EMS(電子機器の受託生産)や顧客対応が絶えず進化しています。たとえばその都度その都度、よその会社がやっていないような仕組みを作り、新たなビジネスモデルとして取り組みをすれば、他社に一歩先んじた開発ができるのではないかというように、単に管理手法だけを真似るだけでなく、ものの考え方やビジネスのやり方についても科学的に考えるようになっていったんです。
財部:
科学的にビジネスを考え、進化し続けるというのは、いうほど簡単ではないと思います。そういう人材を的確に配置する人事というものもとても大きな意味をもってくると思います。いま単純に能力主義、評価主義という一方的な「ものさし」を振りかざす手法はずいぶん頓挫してきた感がありますが、「何をもって人事評価や処遇をしていくのか」という意味で、企業文化は重要ですよね。たとえば企業文化にあまりマッチしないが、極めて優秀で実績を上げている人を、実績にあわせて評価するのか。やはり企業文化を理解して体現し、実績を積み上げている人を評価するのか。そこはどのように意識されているんですか。
村田:
そうですね、当社の採用では8割方、技術屋さんを集めているのですが、かなり以前から、よその企業で経験を積んできた人、比較的若い30半ばまでの人を積極的に採用しています。でも、われわれは彼らを単に「村田カラー」に染めるのではなく、なるべく違う企業での経験を採り入れることを意識して、彼らの考え方を聞いています。とくに上層部、たとえば部長クラスの人材を中途採用で採ってきたときには、本人が前の会社でどういう仕事をしてきたかということに、非常に関心があるんです。だから彼らが「村田カラー」に馴染まないうちに、本人がどんな目で村田製作所をみているかということを、必ず話してもらっています。
財部:
ほお。
村田:
こうした「異文化の人材」を積極的に受け入れていこうというのは、私の前の代からそうでしたし、実際、役員にも中途入社のメンバーが何人かいます。その意味で、単に生え抜きの人ばかりで経営陣を構成してないところは、当社の強みかもしれません。われわれの場合、関係会社は独立採算制にしていますが、彼らを関係会社へ派遣してもですね、そこの経営については、それぞれの立場で考える癖がついています。
財部:
なるほど。
村田:
それから当社では人材交流についても、本社から関係会社に人を出すだけではなく、関係会社から本社にも人材を入れるというように、自由に人を動かすんです。他社ではおそらく、親会社から天下り的に人が異動することはあっても、逆に親会社に子会社からきて、管理職や役員にまでなるのはあまりないでしょう。そういう点で、中途採用の人も積極的に使い、人事異動についてもオール村田ベースでローテーションをかけて、行ったり帰ったりしているのはユニークだと思います。本社と関係会社だけでなく、関係会社から関係会社、海外から国内の関係会社に異動することもあります。
財部:
村田製作所さんの持っている企業カルチャーというのは、そこで働く人なり組織が持つ「本質」なのであると、私はじつは思っています。たしかに、そういう本質部分をきちんとやっていけば、あとから入社した社員たちの考え方や行動も、そこに収斂していくんだろうなという感じが、正直言ってありますね。
村田:
そうですね。じつは会社の歴史が50年、60年と長くなってくると、やはり大企業病に陥ってしまうということで、外部のコンサルタントに入ってもらい、ウチの会社を評価していただいたんです。そうしたらやはり大企業病になりかかっていると。社内の風通しが悪くなっているといわれました。そこで2年半前から、それを変えようという取り組みを行っています。具体的には、上が指示を出したら下はそれに従えばいい、という考えが強くなってきたので、「指示待ち族にならない」、「上から指示をしすぎない」、「下からの声をもっと聞こう」と。社内に閉塞感をなくし、自由闊達にものが言えるようにしたいと思ったわけですね。
財部:
その改革の手応えはいかがですか。
村田:
組織風土改革運動を2年半ほどやって、ずいぶん変わってきたと思います。その成果が上がってくるのはこれからですが、こういうことを手がけられたことは、会社にとって非常に良かったのではないでしょうか。ちなみにそれを機に、自分自身も変えようと思いましてね――(笑)。いままでは、まあ工場は回っても、社長室に閉じこもることが多く、一般従業員と話す機会があまりなかった。これではいけないと思い、たとえば渋谷の東京支社に行くときには、営業担当の窓口従業員を10人ぐらい集め、昼食会をして話を聞くという場を設けたりしています。ちなみに、その昼食会に部課長クラスは出てきません。
財部:
そうなんですか(笑)。最後にあと2つだけ伺いたいのですが、1つはデバイス産業の宿命といいますか、その部品を使う相手方、つまりエレクトロニクス業界の存在がありますよね。この業界の成長いかんで、デバイス産業の成長性もかなり影響を受けると思いますが、今後、村田製作所が成長していくうえで、ここは一体どう考えていくべきなのでしょうか。
村田:
リスク分散は絶えず考えていて、グローバルに、日本、ヨーロッパ、アメリカ、中国、特定の市場に偏らないようにしています。またAV(オーディオビデオ)、コンピュータ、自動車関係、ゲーム機関係、計測器関係といったマーケットセグメントについて、大枠で5つか6つの柱を立て、バランス良く事業を行う。たとえば携帯電話がいいから、携帯電話だけに集中するというようなことはせず、必ずリスク分散をして、どの市場にも一定割合以上は売り上げる。現在、オートモーティブ一関連の売上は11%ですが、これを15%にもっていくというような指標を与えてやってきています。携帯電話は、35%や40%を越してまで事業に首をつっこむのはリスクが高すぎるから、そこで培った技術を車なら車というように、他分野に活用できないか、ということを絶えず言っていましてね。
財部:
リスクマネジメントを徹底されていますね。
村田:
ですが、物理的にマーケットが分散できているということと、一つの分野に偏らないようにしているだけではまだ不十分です。つまり、たとえば現在のあるコアビジネスは、村田のこの技術に基づいてやってきた。では次の世代はどうするかを考えると、新規事業を取り込んでいくことになりますが、新規事業をどんとやればリスクが大きいですよね。しかし(村田の技術から)離れている分野はリスクが大きいですが、自分たちが知っているところや(村田の技術に)近いところは滲み出す≠謔、にやっていけば、非常にリスクが少なく、しかも成果を上げやすい。そういう考え方に基づき、村田のどんな技術を活かし、どんな分野でどこから新規事業を手がけていくのかということも、2015年に連結売上高1兆円の目標を掲げる長期計画の中で、具体的に示しています。
財部:
最後に、村田さんの商品というのは、なかなか消費者の目に触れません。インテルは「インテル入ってる」とアピールしました。アナリストレポートにも「ムラタ入っている?」という面白いタイトルがついていますが、たとえば「この携帯にムラタが入っているのか、じゃあこれにしよう」、というような話は理想でしょうけれど、デバイスを手がけられる企業としてブランドイメージを作っていくということに関して、村田さんご自身はどうお考えですか。
村田:
当社の場合、直接消費者に手に取っていただく商品は、ほとんど作っていません。ただし、リクルートの面からいっても、認知度はある程度必要だと思います。そういうプレゼンスを高めるために、当社の部品を集めて自転車型ロボットの「ムラタセイサク君」を作ったわけです。つまり、自転車型ロボットにこういうセンサーがついていて、こういう機能があるから倒れないということを、テレビコマーシャルで実際の画像を流すことによって、皆さんに「不思議だ」と疑問を持っていただく。またお客様には、「こんな部品を使い、こんな機能をつけて自転車を作ってみました、でももちろん、われわれは自転車ロボットを作るために部品を作ったわけではありません。これらの機能を持っているわれわれの部品で、お客様がそれぞれ良いアプリケーションを考えられるはずです」とヒントを提供する。いわば、お客さんとの会話の接点をみつけるために、自転車型ロボットを作ったわけですね。
財部:
素晴らしいプレゼンテーションですね。
村田:
ですから「ムラタセイサク君」は、お客様のところに持って行っても非常に効果があるし、小学校や中学校に持って行っても理科の勉強になるし、テレビのコマーシャルに登場するとリクルート効果もある。このように、非常に多面的にうまく使えるデモンストレーションを、今後、自転車型ロボットに限らず次々と工夫し考え出していくことによって、電子部品を作る会社としての、わが社の認知度を上げていくことができるだろうと思いますね。
財部:
わかりました。今日はどうもありがとうございました。