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財部:
私も小売業をずいぶん取材していますが、セブン-イレブン・ジャパンを筆頭に、彼らは入口は異なるとはいえ、やはりロック・フィールドさんと同様に製造小売業を目指しています。イーコマースを手がけながら宅配も試行しつつ、スマートフォンを自動発注や決済に利用するといった、従来にはなかった世界が生まれつつあります。こういう動きを、ロック・フィールドさんとしてはどのように捉えていますか。
岩田:
当社の商品とお客様を考えた場合、イーコマースで注文を聞く商売は、将来あり得ます。それと同時に、当社は製造小売業ですから、商品のバラエティと品質に加え、店頭での売り方の完成度を上げていきたい。商品やサービスをレベルアップし、お客様からの信頼を高めれば、次のイーコマースにも可能性が生まれてくるでしょう。
財部:
今後、厳しい競争をどう勝ち抜いていかれるのでしょうか。
岩田:
競争は相対的なもので、他と比べて「ロック・フィールドは良い」というポジショニングをさらに高める必要があります。そうすれば、イーコマースにも様々な選択肢が出てくる。宅配とは別のデリバリーのあり方、たとえばインターネットで注文を受けて商品をある場所に置き、持って帰ってもらう方法、ウィークデイであれば、お客様の通勤途中で商品をお渡しする方法もあります。いずれにしても検討が必要だと思っています。
財部:
「RF1」さんに現状改善の余地は十分にあると思っています。たとえばお店が混んでいて時間がかかり、かなり待たなければならないので、もう少し早く対応ができればいいと思います。電話で欲しいものをパッキングしていただけるようになれば、時間を決めて商品を取りに行くことができるのですが。
岩田:
新宿駅構内にあるルミネ新宿店では、当社の特徴でもある量り売りのケースが一切なく、オープンケースですべてパック販売しています。ここで商品を買っていただくと会計まで約55秒で済みますが、百貨店の店では3分から3分30秒かかっています。今後、量り売りの売り場を減らして、パック品を増やし、会計の時間を短縮していきたいと思います。
財部:
もう1つお願いなのですが、商品を初めて見た時に「このサラダを食べたい」と思うので、お店が混んでいるにもかかわらず店員さんにいろいろ聞きたくなるのです。それで「このサラダにもう1品加えて買うとしたら、どれがいいですか」と聞くと、「それはお客様次第です」と言われます。「今日のメニューでしたら、これはどうですか」ということでいいから教えてもらえたら、「では、これとそれを食べてみようか」と思うのですが、そういうアドバイスをしてはいけないのですか。
岩田:
混んでいる時間でもできれば良いのですが、空いている時間ならアドバイスや、商品の買い合わせ提案ができると思うのです。おっしゃる通りですね。
財部:
ファンのお客さんほど、そう感じていると思います。
岩田:
それは本当にありがたいことですね。もっと良くしていかなければなりませんね。
財部:
「RF1」は確実に、サラダというものの価値を向上させました。ロック・フィールドさんは、ある意味で「サラダをサラダではなくした」会社だと思いますね。
岩田:
そうですね。野菜サラダはアメリカでは食前に出てくるもので、ヨーロッパでは大体メインディッシュの終わり頃に出てきます。アメリカではバブルの時に生活習慣病が蔓延し、1990年頃から健康を意識してサラダ時代が始まりかけていました。一方、ヨーロッパではそういう意味でのサラダ時代はありません。でも、当社が90年代からやってきたのと軌を一にして、世界中が一気にサラダ時代になりました。サラダの概念が固まっていくのはこれからであり、もっと可能性があると考えています。
財部:
今後どういう方向に、サラダや野菜の可能性が広がっていくと思われますか。
岩田:
レタスのような葉物以外の野菜にも可能性があると思っています。また農業生産は新しい時代が始まるでしょう。工業化を進めながら最終的にはロボットで収穫するようなところへ行くはずですし、間もなく広がっていくと思います。
不祥事から学んだ企業の社会的責任の大切さ
財部:
事前にいただいたアンケートの「今思い出しても恥ずかしい失敗」という質問で、総菜工場から汚水が垂れ流されたというお話に触れています。こういうことは、普通は隠したがると思いますが。
岩田:
1988年の事です。社会的な責任という意味でも学ぶことが多かったですね(当時の新聞記事を出して)。
財部:
いつも机の中に入っているのですか?
岩田:
これは強烈な出来事でしたから。県警とマスメディアを合わせて約80人が工場に来たのですが、いかに企業の社会的責任や環境に対する意識が足りなかったかを学びました。そこで、その後に竣工した静岡ファクトリーでは、循環型の工場を造り、ゴミを一切出さずにリサイクルするようにしたのです。他にも風量発電を3基設置し、ビオトープを作り緑化にも力を入れています。お金も手間もかかりますが、それを上回る企業価値があります。
財部:
会社の中の清々しい感じが、サラダ売り場の清々しさと通じるものがありますね。
岩田:
店舗もキッチンからバックヤードまでの衛生管理や清掃を強化し、売り場の人たちが働きやすい環境をもっと作ろうと、サポートチームを作って改善活動を行っています。その結果、売場の人たちが良い働きをしてお客様に接することができれば、コスト以上の効果があるわけで、ESをしっかりやれば必ずCSにつながります。
財部:
店頭をいつも清潔に保ってきれいに見せ続けるのは大変だろうと思います。お客様が商品をどんどん買っていくと、サラダの陳列も崩れていきます。残りが少なくなると、何となく買いたくなくなります。だから、いつも綺麗な状態の商品を、どんどん入れていらっしゃるのでしょう。
岩田:
そう心がけているのですが、忙しくなるとどうしても遅れていきます。僕は予告しないでお店に行ったりしますが、良い陳列、悪い陳列の状態をこうしてiPhoneで撮影して、社員全員に見せるようにしています。悪い例にされたお店はかわいそうですが。
財部:
そうやって情報共有しているのですね。
岩田:
「RF1」だけで186店舗があり、「RF1」を多様化した「グリーングルメ」、和総菜の「いとはん」なども含めて会社全体で337店舗を展開しています。トヨタ生産方式を採り入れたことによって、これだけの規模の店舗網について生産から最終的な店舗運営まで管理する仕組みを作ることができました。
財部:
岩田さんにとって、今の最大の課題は何ですか?
岩田:
後継者でしょうね。経営者にとって、後継者を育てることは非常に大事です。かつて会長になっていた方が、社長に返り咲くこともありましたね。
財部:
そういうケースが多いですよね。
岩田:
やはり市場環境の激変や価値観の多様化が進む中で、カムバックされた方が多いのですが、私にとっては今のご質問が1番の難題です。やるべきことをやるのに、もう少し時間がかかると思っています。それまでに、自分のすべての能力をできる限り維持するようにしなければなりません。そのために健康管理に加え、意識をしっかりとコントロールすることを心がけています。
財部:
一度辞めた社長が突然カンバックするというのはやはり社員が混乱しますよね。しかし会社の業績が厳しくなり、このままでは存続事態が危ういという状況になったら、やはり戻らざるを得ないという状況もあるのでしょう。それだけ今は経営の舵取りが難しい時期なのではないかという気がします。会社としては、本当にこの人しかいないという人材であれば、何歳になっても経営をやるのは構わないのでしょう。ただ本人周辺の人事の整理が重要で、いずれ年齢が若い人を抜擢して経営を任せるのだとしたら、その時には年を取った幹部にはみな辞めてもらうなどの環境作りをしてあげなければ抜擢された本人はやりにくいでしょうね。
岩田:
かつてのカリスマ経営者などは会社の派閥など関係なく抜擢人事をすることが可能だったのかもしれませんが、今の時代は順番待ちもたくさんいますし、そういった部分を考えると抜擢人事もそう簡単ではないのでしょうね。
財部:
そうですね。今日はどうもありがとうございました。