株式会社ロック・フィールド 代表取締役社長 岩田 弘三 氏

ちまちま変化はしない、変える時は社員さえ驚かせる

財部:
1992年には、売上高の2割弱を占めていたギフト商品から撤退されています。

岩田:
ギフト商品は通期で黒字でした。しかし7月の中元期と11、12月の歳暮期に加えて、3月が時々良かったのですが、それ以外の月は赤字だったのです。

財部:
ということは当時、黒字の一番の源泉であったものをやめてしまったわけですね。

岩田:
当時のギフトは、民間企業が役人に、部下が上司に贈答品を贈るという関係でしたから、いずれ続かなくなると思っていました。ヨーロッパなどではギフトはパーソナルで、親しい人に誕生日にちょっと差し上げる程度のもの。モノもそうですし、コトもそうですが、常に社会が何を求めているかということだと思うのです。

財部:
なるほど。

岩田:
今はパーソナルなギフトや手土産としてもお使いいただけるように、日持ちする冷凍スープや料理などの総菜を取り揃えています。祖父母から子供や孫へというような本当に親しい関係の中でギフトを贈り「ああ、助かったわ」というようなニーズは絶対にあります。ただ、過剰なギフトはお互いに負担になるのであまり意味はない、必ずなくなると思っていました。

財部:
日本料理屋で修業されていた時に、師匠が岩田さんには商売の才能があると思ってくれたということですが、私はこういう仕事をしているので、商売には才能が必要だということがよくわかります。たまにうまく起業する人がいますし、たまたまうまく上場してしまうこともあり得ますが、商売の才能にはいろいろな要素があります。そういうものの中に自分を律してくと言いますか、これはこうだと決めたことをきちんとやりぬくことは絶対に必要だと思いますね。

岩田:
そんなにきちんとはやっていませんがね。48年前にレストランを始め、その後、ロック・フィールドを設立して42年間経営してきました。試行錯誤や紆余曲折、失敗もたくさんあります。でも一応、ここにたどり着いているということは強運だったのでしょう。

財部:
もちろん運がなければ駄目だと思うのですが、岩田さんは、ビジネスモデルをさらにどんどん変えていかなければならないという文脈の中で、「日本では前例がないから様子を見ようと、ちまちま試していたらうまくいかなかったかも知れない。なぜなら、少しずつの変化は人には分からないからです。やるなら、精魂込めてびっくりさせる。大きな花火を打ち上げるように、驚かせ、喜んでもらう」(朝日求人ウェブ「『出過ぎてごらんなさい』岩田弘三が語る仕事」)とおっしゃっています。今、総菜のメニューの話を伺っていても、ちまちましてはいけない、変える時は社員を驚かせるという明確な一貫性があると思います。

岩田:
僕は、同質化するのが嫌いなんですよ。みんな一緒になるのが嫌いで、あまり手を組まない。僕は常に少数派で、あまりマジョリティーには与しないほうがいいとか、できるだけ人のやらないことに可能性があるのではないかと思っています。

財部:
東京・恵比寿に、私が妻とよく通っているスポーツクラブがあり、そこで汗を流したあと恵比寿三越で晩ご飯を買って帰るのですが、毎回結局「RF1」になるのです。そのスポーツクラブには12、3年通っていて、結果的に定点観測をしているわけですが、一消費者として気が付くとメニューが全然知らないものになっていたり、知らない間にグレードが上がっていたりするような変化があるところが凄いですね。

岩田:
僕は「RF1」にはイノベーションが必要だと思っています。最近同質化の傾向にあると私は感じています。商品が同質化したらまったく面白くありません。過去の成功体験や売れてきた要素ばかりを持って行くと、結果として同じような商品になるのです。この1年ぐらいの間に「RF1」をもっと大きく変えていきたいし、進化できると思っています。

財部:
「RF1」が、どう変化していくのですか?

岩田:
お客様が買って帰ったサラダをそのまま食べるだけでなく、ご自分で少し作り直すような参加型の商品があれば、より楽しんでいただけると思います。その意味で、コンビニさんと競合していくのではなく、どう差別化していくのかが大切だと思っています。

財部:
そうなんですか。

岩田:
当社のサラダは静岡ファクトリーで生産していますが、1989年に土地を購入し、1990年に第1期工事を始めました。本当にペンペン草も生えていない更地からのスタートでしたが、健康、安全、安心を会社の価値観に据えたのです。2000年の第2期工事の際には環境、エコロジー、サステナブルをテーマに風力発電を3基設置しました。また、これからは保育の時代だということで保育所を設置し、2009年の第3期工事では、より野菜の鮮度を上げる事に取組みました。一方、緑化も進めてきました。同ファクトリーでは、開設当初の従業員の人数分の240本、地元名物の次郎柿を植えてあります。その柿の木の成長と自分たちの成長を、自然と調和した環境の中で感じてもらうことも大切ではないかと思っています。

財部:
これは製造ラインの風景ですね。

岩田:
葉野菜は、虫が付いていないか1枚ずつ人の目でチェックしています。またジャガイモも自分たちで皮をむいて芽取りをしているのです。そういう野菜を、ロボットや機械を駆使して加工していくのが大事ですね。手作業の良さを活かしつつ、その一方で機械化も進めています。

財部:
ジャガイモの皮むきや芽取りにも、こだわりがあるのですか?

岩田:
当社では当日の朝に皮をむき、芽を取ったジャガイモを使ってすぐにサラダやコロッケやグラタンを作ります。こうするとおいしさが違うのです。業者が前日に皮をむいたジャガイモは、酸化を防ぐために水に入れて持ってくる。われわれは、素材の持っている価値をどう活かしていくかを追求しています。

財部:
素材に対する負荷を、いかに軽くするかということですね。

岩田:
そうですね。われわれは、サラダという1つのツールを通じて新しい食を提案してきました。野菜や食材にもっと「価値を付ける」ことができると思うのです。そこにきちんと取り組めば、たとえTPPがどうなろうが「日本の野菜は素晴らしい」、「RF1のサラダは素晴らしい」と言ってもらえるようになると考えています。

財部:
先ほど、買ったサラダを持ち帰って、家で多少手を加えるというお話がありましたが、うちの感覚でいくと、コンビニで買ってきたサラダには手を加えます。器に移しても貧相な感じがするので、手を加えるわけです。ところが「RF1」のサラダはそれ自体が豪華で、1つひとつの完成度が高いので、3品買ってきたらそれをお皿に3つ並べただけで立派なおかずになります。

岩田:
今までの商品は売場で完成品化しています。キットサラダというのもありましてこれは家で盛りつけることを想定しています。サラダボウルであえていただくとか、ご自宅にレモンがあればかけてもらうなど、自由にお使いいただくためのパーツです。自分の好きなお皿に盛りつければ、おいしさが違います。シーザーサラダはシンプルな形で販売していますが、最後にパルメジャーノをかけていただくと、豪華でおいしくなるのは間違いありません。

財部:
今の商品と並立しますよね。

岩田:
今日食べる分は従来のサラダを買って帰り、キットサラダは明日、明後日ぐらいに利用してもらうように考えています。小売業がイーコマースに移行していく一方、小売ではコンビニが圧倒的な強さを見せています。こうした小売同士の大変な競争と、イーコマースとリアル(店頭)販売との関係を考えると、既存のビジネスは今のままではもう増えません。

財部:
そうですね。

岩田:
当社を利用していただいているお客様のほとんどが、今日のおかずとして、サラダや揚げ物を買ってくださっています。ところが今後は少子高齢社会の中で、来店客数の増加も見込めませんし、近所にコンビニができたり、宅配サービスも普及し始めているということも含めて、お得意さんの来店頻度も増えないでしょう。ならば、今日のおかずを買っていただいているお客様に、明日、明後日のおかずも買っていただくという提案や、お総菜やサラダを親しい方におすそ分けしたり、おじいさん、おばあさんなど、家族や親戚への「手土産」としての提案を行っていけば、現在の客単価も増えるでしょう。ここをすべての既存店で強化していきたいですね。