株式会社アマダ 岡本 満夫 氏

財部:
江守会長からは、どういう答えが返ってきたのでしょうか。

岡本:
これまでの60年間は、10年先の状況がどんな方向で推移していくかが、だいたい読めた。たとえば今、画一的な大量生産から多品種少量生産、変種・変量生産、高品質・高精度化への変化に加え、お客様の考え方も千差万別だし、少子高齢化も進んでいる。こうした中で、われわれはメーカーでありながら、皆が、製造会社を1つの仕入れ先程度にしか思っていなかった。自分たちがそこに重点を置いていなかったということは、非常に反省すべきことである。その点、岡本君は開発・製造を長く担当し、海外事業も手がけてきた。そういう実績もいろいろと考慮して、これからの時代は技術がバックボーンになるというスタイルが、メーカーにとって一番いいと考えた、というわけです。

財部:
はい。

岡本:
そういうことを、クリスマスイブに言われたのですが、創業家への説明も年末までにはすべて終わったので正月はゆっくり休めと連絡を頂いたが、心中穏やかではいられなかった。

財部:
そうなのですか!

岡本:
そういう面からみると、アマダの社長としては4代目ですが、さまざまな事柄について決定権を持って、相談する上がいないという面で見ると、CEOとしては3代目ということになり、自負心を持って経営に取組んでおります。

財部:
そういう中で、岡本さんはアマダをどう変えようとしてこられたのですか。

岡本:
サラリーマン社長が、創業者の様なカリスマ性がない中で会社をどう舵取りして行くかということにあり、ビジネスの骨格を変えていくためには「販売のアマダ」から、「エンジニアリングのアマダ」に変わることが、ぜひとも必要だと考えました。要は、機械を売ることを前面にするのではなく、お客様の製品をどのように合理的に作るかということに軸足を置く。そうなると、機械の機能や構造のみならず、製造工程や道具などについても、さまざまな形での工夫が必要になる。あるいは金型にしても、装置に搭載されているプログラムやソフト、周辺装置にしても、サービス体系を含めたトータルな条件によって、製品のリードタイムが決まってくるわけです。

財部:
なるほど。

岡本:
だから、その意味でも、われわれは本来エンジニアリング・セールスを目指す必要があり、実際にそういう考え方になっていかないと、高品質・高精度で付加価値の高い商品も生まれません。ちなみにアマダには、セールスおよびサービス担当者が合計で約650人いました。いわば、その中から売るだけのセールス担当者を減らしてサービス担当者を増やそうとする考え方が、「エンジニアリングのアマダ」の基本です。実際問題、われわれにはそれしか、求心力がありませんからね。

財部:
最近、アマダさんが「製販一体」を進められてきた中で、やはり内部的には相当の軋轢があったのではないでしょうか。製造会社ご出身の岡本社長に対しても、販売系の社員からすれば、「ウチは販売のアマダだ」という意識があるのではないかと思いますが。

岡本:
これについて、僕は意外と運がいいんです。まず今のご指摘ですが、岡本が来たからといって、「販売のアマダ」が明日から急に「エンジニアリングのアマダ」に変わるわけがない、というのは間違いありません。でも幸いなことに、当時は江守会長がまだご存命でしたから、誰もそれ以上別の行動を取ることができなかったというわけです。

財部:
江守会長がご存命の間に、現在の体制を作ってしまったということですね。

岡本:
そういうことですね。

財部:
最後に、これはどうしてもお伺いしたいのですが、新聞などで、アマダさんについて「営業利益が6割減」といった報道がありました。岡本社長ご自身は、この現状をどう捉え、今後それをどう克服していこうとお考えなのでしょうか。

岡本:
この急変環境に我々生産財の機械はリードタイムが長く在庫過多となり、早期に合理化は難しい面があります。しかしながら、アマダをご理解いただくためのポイントとして、一般の機械メーカーは販売代理店を使いますが、われわれは海外も含めて直接販売を貫いている、ということがあると思います。その直販制度が、顧客密着型のビジネススタイルをもたらしているわけですが、「お客様がいま何に困っていて、その解決のためにアマダがどんな提案や工夫を行うのか」、お客様の経営環境での問題がリアルタイムに判断できる点が、まず1つ挙げられます。

財部:
ええ。

岡本:
その意味で、お客様がお持ちになった図面を使い、最新のソリューションで実際に製品を加工する「実証加工ビジネス」も、より地域に密着した展開をしていく必要がありますね。アマダ本社では、「実証加工プラザ」などが設置された「ソリューションセンター」を始めとする大規模な施設を構えており、この30年間で120万人近くのお客様にご来場いただいています。とはいえ、現在のように厳しい経済状況の下では、日々多忙を極めている経営者の方より、むしろ工場長や現場の作業者が、日帰りでこうした場に足を運んで頂きアマダと共に加工提案をしていく環境を整備することが必要です。

財部:
そうですね。

岡本:
ですが、そういう拠点をあちこちに造るのではなく、たとえば倉庫を一定期間借りて、そこで実機のデモを行うなど、より地域に密着したスタイルで事業を進めていく方がいいと思います。また当社は無借金経営ですが、そういう財政上の利点を活かし、資金的に厳しいお客様に対しては、たとえば機械だけを先に納入し、「とにかく半年間お試しください」というスタンスを取ることも考えられます。あるいはリースでもいいのですが、要は、さまざまなファイナンス上の手法を駆使すれば、需要をもっと喚起できるのではなかと思うのです。アマダには、既納入レベルで言えば国内約7万社、全世界で約14万社のお客様があります。ところが今は、お客様の側に設備投資をしたいという意欲はあっても、市場の減退に加えて、資金面が厳しいことが少なくありません。そういう中でも、仕組みを整えれば、お客様のリピート需要の掘り起こしにつながるはずです。

財部:
ほお。

岡本:
ところで最近、お客様などとお話する際、経済の動きを干支(えと)に譬えています。たとえば、亥(い)の年だった一昨年は「猪突猛進でどんどん進んでいた」とか、昨年は子(ね)の年で、「地震の前触れが来たかと思ったら、大地震になってしまった」という感じ。そして、今年は丑(うし)の年ですから「地に足をつけて一歩一歩。この年にどんな戦略を考えていくかが大事」と話します。さらに、来年は寅(とら)の年だから「食うか食われるかの勝負」で、その勝負に勝てば、卯(う)の年である再来年は「兎のようにジャンプできますよ」と回復期に向けた話を致します。

財部:
なるほど。面白いですね。

岡本:
これもまた一言で言えば、直販制度がもたらす地域密着型の発想が勝負になると思います。まあ、われわれにとっても、販売は一歩一歩、足を使うことが大事だということですね。それが原点ですよ。

財部:
でも直販であるからこそ、お客様に関する情報もストレートに収集できるわけですよね。

岡本:
ええ、本当にストレートです。お客様も、最近では「セールスに来てくれ」ではなくて「サービスに来てくれ」とか「エンジニアリングに来てくれ」と言ってくださいます。そういう中で、「ウチの工場を見てほしいのだが」とか「ウチはこういう苦労をしているんだ、何かいい工夫はないかね」というお客様の声を聞くことが、ビジネスチャンスにつながってくるのだと思います。ちょっと話がそれるかもしれませんが、最近「景気浮揚対策で10兆円」とかいうニュースもありましたが、景気回復のうえで1番大切なのはやはりムードです。その意味で、われわれが市場をリードしていくうえでも、いかにムードメーカーになるのかという部分を、もっと突き詰める必要がありますね。

財部:
そうですね。僕自身の立場としては、やや誇張ぎみではありますが、中国経済には何の問題もないと繰り返し言っています。たしかに輸出産業はショック状態で、倒産や失業が多発していますから、沿岸部にばかり出向いてカメラを持って行き、デタラメな取材をすれば「中国経済は息も絶え絶え」だということになるでしょう。ところが現実には、中国では外需から内需への転換が相当進んでいますし、とくに大地震の被害に遭った四川省は復興による特需に沸き返っています。実際、内陸部で建設が好調なのは当たり前で、あの経済ステージの国がインフラ整備や公共事業をやると、経済効果が抜群ですから、結局中国ではいま、沿海部よりも内陸部の方で、消費が非常に高まっているわけなんです。

岡本:
おっしゃる通りですね。

財部:
しかも中国は野心的な国ですから、この時期にASEAN諸国を全部自国の影響下に置こうとして、お金をつけに行きますよね。ちょっと調べてみると、ASEAN諸国の実態経済はほとんど傷ついていません。金融セクターだけが少しおかしくなっているので、結局、中国がお金を出せば、ASEAN諸国の経済は動いていくんです。

岡本:
われわれは中国の華南地区の深センに現地法人(天田国際貿易有限公司)を置いていますが、深センはどちらかといえば、もともと輸出地域でした。ところが最近、深センの企業がどんどん内陸方面へ進出しています。さらに揚子江を中心にして、造船会社もどんどん入ってきています。それから今後、中国国内で「iPhone」の3G(第3世代携帯電話)がすべて中国規格になります。それがアマダにとってどんなビジネスになるかと言えば、携帯電話の電波を中継するための、基地局の配電盤から一切合切までが、板金でできているんですよね。

財部:
そうなんですか。

岡本:
そういうわけで、今年4月6〜11日まで、北京の国際展示センターで「第11 回中国国際機床展覧会」(CIMT)という、中国でも大きな機械見本市が行われるのですが、われわれはそれに合わせて、「国際金属加工技術フォーラム」という板金の国際フォーラムを、北京の釣魚台国賓館で4月7日に開催します。同フォーラムでは、今後市場拡大が期待される「中国16大プロジェクト」のリーダーを始めとする中国・日本のお客様をお招きし、われわれの金属加工技術をアピールしたいと考えています。これはひょっとすると、大きなビジネスに繋がる事を期待しております。

財部:
来年には、アメリカ経済も少し良くなりますしね。

岡本:
ええ。でも、まずは先に、中国が良くなりますよ、絶対に! そしてアメリカの早期回復に期待したいです。

財部:
そうですね。中国が踏ん張っていれば、世界経済はそんなにひどい状況に陥らずに済むはずです。本日はありがとうございました。

(2009年1月27日 神奈川県伊勢原市 アマダ本社にて/撮影 内田裕子)