富士通株式会社 間塚 道義 氏
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日本に軸足を置いた「グローバルIT企業」を目指す

富士通株式会社
代表取締役会長兼社長 間塚 道義 氏

財部:
今回ご紹介いただいたアマダの岡本社長とは、どんなお付き合いなんですか?

間塚:
財部さんもよくご存知だと思いますが、岡本社長はアマダマシニックスという製造会社に長くおられました。2003年に製販一体化ということで、販売系のアマダ本体がアマダマシニックスを吸収合併された時、岡本社長は本体の社長にご就任されました。私自身、岡本社長にはマシニックス時代から、当社のお客様として大変お世話になってきたんです。

財部:
そうなんですか。

間塚:
「三直、三現主義」とよく言われていますが、岡本社長は何かというとまず現場に行く。そして現場を見て、すぐに現場に即した対応をするという姿勢を貫いてこられました。私もどちらかといえば現場主義で、何かあればすぐにお客様の所に伺う。そこで、お客様や私たちが話していることが本当に正しいのかを判断し、然るべき対応をする、ということを、ずっと営業の現場でやってきました。生産現場と営業現場では違いもありますが、そういう意味で、お互いに気脈が通じるという面がありますね。

財部:
岡本さんは、独特のキャラクターを持っているタイプの経営者ですよね。お話を聞いていて、非常に繊細な方だと感じました。

間塚:
岡本社長は、周囲に非常に気配りをされる方で、包容力があります。だから社員の方が「岡本さん、岡本さん」と慕っておられるんじゃないかと思います。私も岡本さんも同じ昭和18年生まれの未(ひつじ)年ですから、もともと優しいんですよ。どうも私の場合、社内では厳しいとか、そういう話が多いですけどね(笑)。

ソリューションビジネスの再構築に取り組む

財部:
今回、金融危機が起きて世界経済全体が崩れてしまったわけですが、それが良いとか悪いという議論、もしくは景気の問題をすでに通り越して、各社各様に戦略や考え方そのものを変えざるを得なくなった、という印象を強く持っています。その意味で、間塚さんの関連資料の中にあった「個人ではなく、組織体として型を作っていく」というお話を非常に興味深く読ませていただきました。間塚さんご自身はどんな問題意識のもとに、そういう考え方を抱かれたのか、というところから伺いたいのですが。

間塚:
私は、昭和43年に入社してからコンピュータビジネスを担当してきましたが、当時は、ハードウェアを作っている事業部とSE(システムエンジニア)、営業とが一体になってビジネスを進めていました。とくに昭和50年代からIBM互換機をやり始めて以来、全員がIBMのお客様に対して「富士通のシステムはこういうものだと話していこう」と、ある意味で組織的に動いてきた結果、当社は昭和54年に、日本IBMさんを抜いて国内市場でトップに立ったんです。

財部:
なるほど。

間塚:
世間では「次の年にはまた抜き返されるだろう」と揶揄されましたが、おかげさまで成長を続けることができました。そのように全員が全力を出してやってきたわけですが、改めて見直してみたところ、当社のビジネスにさまざまな課題が出ていたのです。

財部:
どんな課題が生じていたのでしょうか?

間塚:
具体的には、2001年にITバブルが崩壊した時ですが、当時は海外の通信ビジネスが不調になり、いまと同じように半導体事業が急激に落ち込みました。それまで、ソリューションビジネスはどちらかといえば、その「底」を支えてきた存在でしたが、2003、4年頃になると、さまざまな問題が生じて、ソリューションビジネスそのものを大きく見直す必要に迫られたのです。

財部:
それは具体的に、どんな問題ですか?

間塚:
当社では、私が入社した時からずっと、営業とSEが別部門でした。そういう中で長くやってきますと、お互いに目標とするものが変わってくるのです。営業の方は、どちらかと言えば受注や売上を重視し、「市場シェアを取ろう、伸ばしていこう」と思考します。逆に、SEの方は「システムをきちんと作って納期内に納めなければならない。かつ事業としても黒字にしなければならない」と考える。そのため、お客様からのリクワイアメント(requirement/要求)に対してご提案を行う際、営業は「これはどうしてもやらなければならない」と主張し、SEは「そうは言ってもこれは当社にリソースも少ないし、ビジネスとして難しいからやめよう」ということで、意思決定に時間がかかり、ビジネスが停滞してしまう、ということがあったんです。

財部:
それは、ソリューションビジネスの根幹に関わる大きな問題ですね。

間塚:
現実の問題としては、2003、2004年に巨額の引き当てを行いました。銀行さんの引き当ては、景気が回復すると戻ってくることが多いですが、われわれが行う引き当ての場合、ほぼ回収の見込みはありません。また、お客様に納期や品質の面でご迷惑をおかけするということも実際に出てきました。そういうわけで、2004年から「SBR」(ソリューションビジネス・リストラクチャリング)という、ソリューションビジネスの再構築を始めたわけです。

財部:
SBRでは、具体的にどんなことを行ったのですか?

間塚:
まず1点目は、フォーメーションを変えるということで、営業部門とSE部門を一体化しました。たとえば金融業、製造業、官庁・自治体など、すべてのビジネスグループで営業とSEを統合したほか、各地域でも営業とSEを一体化しました。そうすることで、互いに目標とするところが1つになり、そこに向かってスピードをもって一緒に走っていけるようになってきました。営業サイドも、単にシェアを取りに行くだけではなく、現状ではリソースが足りないとなれば、「時期的に、もう少し待って下さい」とか、場合によっては「このビジネスはやめさせて下さい」とお客様を説得するというように、大きな方向転換を遂げたのです。

財部:
ほかには、どんな改革を進めたのですか?

間塚:
2点目としては、日々の行動プロセスを変える、というようなことをやりました。実際、お客様からリクワイアメントをいただいてから皆が集まり、「このプロジェクトをどうするのか」を話し合うのでは遅いのです。そこで、私たち自らがお客様の中に入り込み、お客様の事業に直結するようなシステムを一緒に考え、知恵を出し合っていく方向に、行動プロセスを変えたのです。具体的には、「アカウント・プラン」(顧客先に必要なIT投資や、それに対する富士通の貢献度などについて、アカウント・マネージャーと呼ばれる顧客担当者が提案を行う制度)というやり方を、徹底して行っています。

財部:
なるほど。

間塚:
当社では、営業もSEも、それまで個人のノウハウに頼ってお客様に提案を行ってきたという側面は否めません。それはそれで当社の強みの源泉でもあったのですが、お客様をとりまく市場や競争環境が変化し、そのままではそうした変化に十分には対応できない状況になりました。そこで富士通グループ全体の知恵を、個々のビジネスに埋め込んでいくための仕組みを作ろうという意図が、この「アカウント・プラン」の背景にあります。やはり1つひとつのビジネスを、担当者個人にすべて委ねるのではなく、幹部社員や役員も含めてビジネスを育て、より大きな成果に結びつけていくためのプロセスが不可欠です。その意味で、「個人の戦闘力」から「組織の戦闘力」で戦う方向に、会社を変えていこうというのが、2つ目の改革における重要なポイントなのです。

財部:
「組織の戦闘力」を高めるという点は大切ですね。

間塚:
さらに3点目の改革は、ご注文いただいたシステムを期日通りに、品質面もきちんとクリアしたうえで納品できる体制の構築。それを、私たちは「SI(システム・インテグレーション)アシュアランス」と呼んでいます。これは、プロジェクトがスケジュール通りに進行しているのか、どこにリスクがあるのかなどを、社内の第三者が監視する。そしてそのリスクをお客様と一緒にヘッジしながら、納期と品質をきちんと守っていこうという仕組みを作りました。 最後に4点目は、この仕組み自体が、とくにOJTを通じて、現場で働く人々の考え方や仕事のやり方を、新しい時代のビジネスに合うものに変えていくための人材育成の型になる、ということです。私たちはこのように、組織と行動様式、マネジメントを変え、同時に人材の育成を図るという方向で改革に取り組んできました。

財部:
その結果として、変化を実感されていらっしゃいますか?

間塚:
正直言って、こういう取り組みには時間がかかりますね。当社がソリューションビジネスの再構築を始めて、今年で5年が経ちましたが、まだ十分とはいえません。やはり、少し手を緩めると、元に戻ってしまいます。

財部:
一番、元に戻りやすいのは、どんなところですか?

間塚:
やはり、先ほど申し上げました「アカウント・プラン」という手法を取り入れた部分です。ここでは、お客様のニーズにきちんと対応させていただくために、事業部やプロモーション部隊を含む全社のノウハウを効率的にビジネスに活かす仕組みを作ったわけです。ところが、少し手を緩めると担当者任せになりがちです。やはり幹部社員が自ら率先してプロジェクトを推進していく意識が大事なのです。これはトヨタさんの生産革新でも同じだと思いますが、常に改善を行い続けていくことは、大変なエネルギーを必要とするものです。当社の場合も、ソリューションの現場の改善を、常に言い続けていかなければなりません。

財部:
私は、ITソリューションビジネスそのものは詳しく知りませんが、その周辺事情については、様々な場面で見てきたつもりです。そこで非常に問題だと思うのは、富士通さんから見た顧客サイドの企業が、「ITソリューションを導入することで何を解決したいのか」という基本的なポイントを間違えているのではないか、ということです。要するに、収益改善なり、ビジネスモデルを変えたいとか、なにがしかの効率を上げたいということで、顧客企業が富士通さんに依頼をされる。その時点で、顧客先の経営陣が抱いている問題意識を、社内のシステム部門が本当に理解しているのか。そしてそれが、富士通さんの担当部署にきちんと伝わっているのかということを、じつは危惧しているのです。

間塚:
そうですね。先ほど申しあげた「課題」には、まさにいまご指摘いただいたようなことも含まれています。それについては、もちろんわれわれにも反省点がありますが、いわゆるITソリューションが汎用機からオープン化の時代に移行していく中で、ITベンダーは、どちらかと言えばシステム技術中心にサポートさせていただくという視点が大きかったのです。逆に、お客様の視点も、たとえば「OSをどうしよう」とか、SAPやオラクル、あるいは「パッケージソフトは何を選ぼう」とか「データベースはどうしよう」という面に向きがちでした。

財部:
なるほど。

間塚:
ところがおっしゃる通り、やはりお客様の中でも、経営サイドと現場、IT部門の3者間で意識の齟齬が生じていて、お互いに連携を取られないままに「こういうものを作ってほしい」と言われるようなプロセスがあったことも事実です。そこで、先ほどの「SIアシュアランス」における取り組みの1つとして、私どもからお客様の側に「3者間で意識のずれがないようにやっていきましょう」というようなことも、ずいぶん申し上げてきました。ところが、お客様の中でも、経営の課題と現場の問題が共有されていないという側面もあるのです。