株式会社安川電機 利島 康司 氏
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ロボット村をつくって実証実験の場を世の中に提供する

株式会社安川電機
取締役社長 利島 康司 氏

財部:
よろしくお願いいたします。まずはニコンの苅谷さんとのご関係を教えて頂けますでしょうか。

利島:
ニコンの苅谷社長ですね。安川電機の最先端のロボットを使ってくださっているがニコンさんです。ニコンさんの生産ラインでは真空でモノをつくっていくのですが、真空ですから当然人間は中に入れません。そこでロボットなのですが、大気中で動くロボットは多少熱が出ても、空気で冷えますのでモーターのベアリングが焼きついたりしません。しかし真空の中でモーターが回ると、熱の逃げどころが無いのです。それをどうするかというと、ベアリング部分に磁性体という熱がでないものを使うとか、もっと極端なものは、接触部に磁力を与えて少し浮かせる事で、摩擦がおこらず熱が出ないようにする技術があります。

財部:
リニアの技術ですね。

利島:
はい。真空の中で半導体ウェハーに電子回路を焼き付ける、写真で言えば感光する工程があります。その際に「感光が済んだら運び、次の材料をセットする」というロボットの動きがあります。この動きが正確でないと感光がずれてしまい、作られた半導体部品(メモリー等)の品質が確保できないがために、テレビがうまく映らないとか、パソコンが動作しないといった事が起こります。モーターが熱を持つと、熱で歪んで、モノが膨張したり、縮小したりしますので、ずれが出てきます。そこで熱の出ないモーターをつかってロボットを動かすのです。このロボットの技術と、モーターの技術をニコンの苅谷社長の所へ納めているわけです。

財部:
なるほど。

利島:
ニコンさんが色々な技術をやっている中で、一番高価なのは露光装置というもので、50億円くらいします。半導体の最先端、例えば東芝さんのフラッシュメモリーとか、日立さんの半導体部品製造の現場に使われています。そこの非常に重要な機能を持つ搬送装置に、当社のロボットが使われているのです。

財部:
そうですか。

利島:
ニコンさんが何か開発するとなるとだいたい5年くらいかかるのですが、その際、一緒に開発しようと声がかかる会社が20社くらいあり、当社はその1つですね。私は苅谷社長の所に「今、何をしていますか?」と秘密を探りに行くんです(笑)。苅谷社長としては、企業秘密を漏らすわけにはいかないけれど、同時に、ある程度方向性を知らせておかないと付いてこられないかもしれないと考えるわけです。難しい立場ですね。私はいつもニコンさんをお客さんとして尋ねて行きますが、向こうは友達同士のような感覚で付き合っていただいているのかもしれません。付いてこないと困るなと思ってね(笑)。

財部:
阿吽の呼吸の会話が目に浮かびます。ニコニコしながら、非常にレベルの高い語らいがあるような感じがします。

利島:
年に何回かお会いしに行きます。あまりお酒は召し上がらないので、食事するくらいですが。あとは半導体のショーが年に1回あり世界中が集まりますが、その時は当社の宣伝をするにはニコンさんの近くにブースを置くのが良いので、無理やりブースを置かしてもらいます(笑)。

財部:
そうですか。じつはこの間フィンランドへ2週間ほど取材に行って来たのですが、利島社長はフィンランドの名誉領事をなさっているのですよね。

利島:
そうなんです。実は当社は、スウェーデンにヨーロッパの拠点がありまして、北欧にはご縁があります。それで在北九州フィンランド名誉領事を、先代の会長が引き受けていました。会長の任期が終わる際にどうするかと考えましたが、スウェーデンのスタッフに「北欧の領事と言うのは大変名誉な事だから引き受けたらどうか」と言われまして。それで、今年に入ってから、私がやらせてもらっています。

財部:
そうなのですか。日本は今、総選挙を控えていて新しい国の形を模索しているタイミングです。少子高齢時代を本格的に迎えようという中で、北欧に目を向けて見ると、高福祉・高負担でも国民の満足度が高い。しかも経済成長をしています。その仕組みはいったいどうなっているのだろうか、日本に参考になるところはないだろうか、という問題意識から取材してきました。

利島:
そうですか。

財部:
北欧はどの国も人口が500万人位です。ですから、単純に日本と比べてしまうと規模がまったく違うので現実的ではありません。しかし、今、盛んに言われている、地方分権や道州制という視点で見ると、イメージが重なりましてね。リアリティーを非常に強く感じて帰ってきたんです。

利島:
はい。

財部:
ここからが利島社長との関連なのですが、フィンランドでも少子高齢化が社会問題になっていまして、経済大臣に対応策を聞いてみると、ハイテク技術で乗り切るというのです。これは産業政策という意味と、介護分野へ導入という意味です。僕はフィンランドにそのような技術があるのかと疑問に思ったのですが、そこに安川電機のロボット技術がコミットしているのですね。

利島:
新技術や教育の話になると、日本では「国がやる」ということになるのですが、フィンランド大使館の人と話をしていますと、自分達のようなヨーロッパでも北のはずれの国が生きていこうとするなら、都市や地域が「自分のところは何をしたら良いか」と考えて強くならなきゃいけないと言うのです。面白いのは、熊のように背が高く大きいフィンランド人が言っている事は、非常に繊細で芸術性が高い。さらには高度な技術の話をするんです。それを聞いていると、「置かれている背景が物事を深く考えるようになっていったのだなあ」と感じるのです。

財部:
なるほど。厳しい環境の中では誰かを頼ってじっと待っていたら、命に関りますからね。

利島:
これまで北欧は「北のはずれの国」というイメージがあったと思うのです。でも、グローバリゼーションが進むと、もう北も南もなくなります。情報の先端を扱う所へ先端の技術がいきます。だからノキアのような世界一の企業を生み出せるわけです。フィンランドはいろいろなものを受け入れますから、うらやむ程の先端技術が集まっています。日本人から見ると、技術とはかけ離れているような環境の人が、時代を先取りした話をするので、聞いていて非常に驚きますし、同時に頼もしい感じもするわけです。

財部:
安川電機の高い技術もフィンランドの人は十分理解するわけですね。

利島:
はい。私どもの会社は産業用のロボットから、民生用へ参入しようとしています。そのあたりの話がフィンランドの動きと非常に合っていましてね。安川電機がもっている技術は産業用だけに止まらず、医療用、介護用へロボットが十分転用できます。ですから、名誉領事とかいうことを超えて、お互いが持つ技術情報を交換しながら、一緒にやっていく準備を今している所なのです。