カルチュア・コンビニエンスクラブ株式会社 増田 宗昭 氏

財部:
そうですね。それを変えるために、どういう手を使うんですか?

増田:
CCCは経常利益が約150億円で3年間ぐらい横ばいになっています。100億円から300億円に行けないんです。これは、胡座をかいている証拠です。だから僕は、これまで作り上げてきたビジネスモデルに依存している限り、経常利益150億円は突破できないと思った。で、ここを突破するためには、「仕組みの転換をしなければいけないね」ということを言っているんです。

財部:
はい。

増田:
ウチは「命令しない、統制しない、好きなようにせい」というスタイルでやってきましてね、役員もたくさんいたんです。でも、(2008年度から)COOとCEO、CFOと3人だけに減らしました。それから、社外役員を4人お願いしていて、それを過半数にしたんです。

財部:
ほお。社外役員に過半数持ってもらった。

増田:
社内の役員3人が責任を取る。売上高300億円を超えるためのストーリーが描けなかったら、もう3人ともクビ、というように責任を明確にしたんです。

財部:
新しいビジネスを生み出させる強烈なプレッシャーですね。それは、どういうイメージなんですか?

増田:
「皆、足並みを揃えようぜ」ということです。ラグビーで言うとね、皆がウィングの位置に行っちゃうとかね。ボールがボーンと飛んでいったら、皆でワーッとそれを取りにいっちゃう(笑)。これまでルールないから、誰がフォワードかという役割は決めていませんでした。皆好き勝手にやってきたんです(笑)。

財部:
それは分かりやすいですね(笑)。とはいえ、極端な話、皆がゴールの前に集まった状態でも、とりあえず得点して、ゲームに勝っているわけじゃないですか。だから今度はきちんとディフェンスを置き、フォワードにもサイドにも、逆のウィングにも人を置くよ、ということになれば、効率が上がりますよね。

増田:
ええ。よく言うじゃないですか、戦術のミスは戦略でカバーできる。ただし、戦略のミスは戦術ではカバーできない、と。その意味では、企画を(生業に)選んだことや、社内で自立を重んじた戦略は正しかったと思うんです。

財部:
なるほど。たしかに、統制された組織というものは、改革の際に「全取替」しなければ変われませんからね。

増田:
その点、ウチは自立集団ですから、皆をちょっと呼んで、「おい、そろそろこんな風にやらないか」と言ったら、「そうだな」ということになりますんでね。自由性を残してやっていると、やはり変われるんですよね。

財部:
そうですね。

個人のライフスタイルとブランド価値をマッチングさせる場

増田:
僕が今後やっていこうと思っているビジネスの本質は、「リコメンド」(推薦)です。僕が、企画会社として1番最初に手がけたのは、くどいようですがTSUTAYAという「ライフスタイルを選ぶ場」でした。

財部:
ええ。

増田:
人間の究極の欲求は「自分らしく生きたい」ということだと思っているからです。でも、皆、「自分らしさ」というところがわからなくなるんです。だから迷う。 僕は、その「自分らしさ」を選べる環境を提供したいんです。たとえば『TSUTAYA』でDVDを借りて、『山口組4代目』を観る。気に入った人は、その世界に入るきっかけにもなるし、「この世界だけはやめとこう」という人もいる。あるいは『危険な情事』を観て、「今の彼女と別れよう」という人もいるだろうし、「やはり今の彼女を大事にしよう」と思う人もいる。でも、それは人それぞれなんですよね。「何がいい」ということではなく、人それぞれに好みがあるということなんです。

財部:
そうですね。

増田:
そういう「自分らしさ」をより鮮明に、脳の中に映像化することで、人は自分の生き方を発見していく。皆、そういうことをしたがっていると思うんです。そこからレストランに行くのか、たこ焼きを買いに行くのかという、自分の好みのスタイルを実際に体験していける。これがもの凄く幸せなのではないかと思います。そういうライフスタイルを選ぶ場に、『TSUTAYA』がなりたいと考えただけなんです。1店舗目の時からね。

財部:
『TSUTAYA』が1店舗目の時からですか。

増田:
そうです。「リコメンド」の話に戻りますが、さっきの話は、お客様がみずから店舗に行って選ぶということですが、これからはちょっと違います。「リコメンド」はまったく新しい概念に向かっていてね、僕は「今、(日本市場における商品・サービスの担い手と消費者との)コミュニケーションは第3のステージに来ている」と言っています。いまやモノが溢れる時代を越えて、さらに店舗が溢れる時代になったときに、いったい何が差別化や顧客価値を生むのかと考えました。その答えは、僕はメッセージだと思っているんです。

財部:
なるほど。

増田:
こういう時代になったときに『TSUTAYA』は、単に店に来て(CDなりDVDなどの商品を)選んでもらうのではなく、個々のお客様に対して(「自分らしさ」を探す手助けとなる)リコメンドをする、そういうプラットホームにならなければならないというのが、僕が本当に言いたいところです。

財部:
ひとりひとりのお客さんに別のサービスを提供する。

増田:
「そんなことができるのか」、という話なんですが、僕はできると思っています。実際、僕たちは最初から、そこを目指してやってきたわけです。もの凄く理屈っぽい話なんですが、この小話がいい譬えになるでしょう。モノが少ない時は、モノ自体が情報。風邪薬がないときに『パブロン』が出てきた。すると大正製薬は、風邪によく効く風邪薬ができたということを、社会に伝えたいと思います。「『パブロン』は風邪に効く」ということを皆に伝えるためのマスメディアが必要になってくる。この時のポイントは、1人当たりのコミュニケーションコストが安価であること。そうすると媒体として一度にたくさんの人が見る「テレビ」、「新聞」がいい、ということになるわけです。

財部:
そうですね。

増田:
でも、今は「豊かな社会」になりました。『パブロン』以外にも良い風邪薬はたくさんあります。ほかにも、卵酒の方がいいとか、ゆっくり寝た方がいいとか、「豊かな社会」ゆえの多数のソリューションが溢れています。そうなると、今度はお客様が、何が自分にとって何が良いモノなのか選べなくなる。そこで今度は、お客様みずからがサービスを探しに行くようになる。それが『グーグル』であり『楽天』であり、『ヤフー』なんですよね。

財部:
はい。

増田:
ところが最近では、お客様の嗜好も多様化しています。多数の時計メーカーから、いろいろな商品が出てきていますよね。財部さんの好きな時計と僕の好きな時計は違います。そういう情報を元にして、今度は、その特別な個性を持った時計が自分の顧客を選びたがる≠謔、になるんです。きっと。僕は、それを実現しようと思っているんですよ。

財部:
うーん、なるほど。

増田:
そこで、『TSUTAYA』のカードなんですが、お客様はカードのことをよく「会員証」と言われます。ところがお客様は本当に、「自分は『TSUTAYA』の会員だ」という意識を持っていらっしゃるかどうか。そこは甚だ疑問だと思います。たしかに『TSUTAYA』が好きの方はたくさんおられますが、「自分は『TSUTAYA』の会員だ」という意識を持っている人が、何人いるのだろうかと、僕は思うんです。

財部:
そうですね。

増田:
今、「会員証」と称して、お客様にカードを持っていただいているのは、これがないとレンタルできない・ポイントが貯まらないからで、要は持っていただいているだけの「パスポート」です。ところが、いま多くの会社が、顧客の囲い込みだとか顧客管理と言って、カードを発行していますよね。

財部:
ええ。

増田:
たとえばここに3枚カードがあるとします。スーパーマーケットのカード、『TSUTAYA』の『Tカード』、そして『Tカード』とスーパーマーケットの複合カード。この3枚の中で「どれが一番いいですか?」というと、一番便利なのは複合カードでしょ。だって、いろいろな国に行けるパスポートのほうが絶対にいいじゃないですか。さらにどこでもポイントがついて、どこでもポイントが使えたら、絶対にそれがいいですよね。僕が何も言わなくてもこのカードに収斂されるわけです。それで作ったのがこの『Tカード』なんです。

財部:
そうなんですか。

増田:
ですが「こういうカードができました」となると、誰もが、このカードを作ることを目的にすると思うんです。でも、僕が本当にやりたいのは、3000万人のT会員の方に自分の好みを発見するための「リコメンド」なんです。

財部:
3000万人はやはり凄いですね。

増田:
これを思いついた20数年前のまだ創業して間もないころ、ハードディスク、2ギガを2億円で買ったんですよ。 みんな馬鹿にしてたんですよ。そんなバカでかい容量でそんなデータなんかとっておいてどうすんの、ってね。(笑)でもデータが財産になるって、僕はわかっていました。だから創業以来、全部のデータを残しておいたんです。

財部:
それはお話を伺っていると、CCCは増田さんがずっとリードしていく会社ですよね。

増田:
僕は、そんなことは思っていませんが、いずれにしても、企画会社として新しい概念をいかに組織的に動かしていくかということが、僕の今の命題です。でも、これから実際に企画を生み出すのは僕じゃない。だからCCCを、僕みたいな人間が何100人も出てくるような企画集団に仕掛けていくことがミッションなんです。

財部:
なるほど。なかなか難しいところですね。

増田:
『TSUTAYA』は日本で1番CD・DVD、本も販売しています。でも、僕らは本屋をやりたいわけじゃない。「ライフスタイルを選べる場」を作るということをずっと言い続けてきたら、今こうなっているという話なんです。だから僕が重視しているのは、チェーンの売上高じゃない。Tポイントのビジネスでいうと店舗数が最も大事で、エネオスさん、すかいらーくさん、焼肉の牛角さん、オートバックスさん、ロッテリアさん。それからファミリーマートさんに行っても、富士シティオさんという食品スーパーに行っても、フィットネスクラブ、カラオケに行っても『Tポイント』がつく。まあ、全国で3万カ所ぐらいですかね。

財部:
このところ、ずいぶん急激に増えましたよね。

増田:
『Tカード』をアライアンス先さんが発行してくださるようになったので、3000万人のユニーク・アクティブ・ユーザーが、間もなく4000万人になるでしょう でも僕は、結果は絶対に求めないんです。というのも「柿は勝手に落ちてくる」から。つまり、ちゃんとお日様に当てて水をやり、手入れをしてあげれば、結果はかならず出てくる。もっとも、僕はお客様のことだけを考えているので、自社の売上げとか、利益とか、シェアとかまったく興味ないんです。極論すれば、会社なんてどうだっていいんです。会社は結果だから。

財部:
その考え方について、社員の皆さんは増田さんをどうみているんですか?

増田:
社長がこんなことを言っているので、逆に、社員の方がしっかりしないと、って思っているでしょうね(笑)。

財部:
ははは――。今日はありがとうございました。

(2008年9月9日 東京都渋谷区 カルチュア・コンビニエンス・クラブ本社にて/撮影 内田裕子)