感性を活かし、顧客価値を創造する企画集団を作る
カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社代表取締役社長 増田 宗昭 氏
財部:
最初に、今回ご紹介いただいたブックオフ・コーポレーションの佐藤弘志社長とのご関係を少しお伺いしたいのですが。
増田:
佐藤社長ですね。話がちょっと長くなるかもしれませんが、僕らは『TSUTAYA』をやっていくことを目標としているわけではなく、さまざまな企画を作って世の中に貢献しようと考えている会社なんですね。だから『TSUTAYA』に限らず、いろいろな方々とお付き合いをして、「一緒にこんな企画をやっていきましょう」という話をしてきました。
財部:
ええ。
増田:
まだ『TSUTAYA』を作って間もない頃、ある人に頼まれて勉強会をやらせていただいたんです。渋谷のある小さなマンションの1室で『TSUTAYA』のビジネスモデルや、新しいビジネスモデルの立ち上げ方についての講義をしました。その時、1番前の席で私の話をお聞きになっていたのが、当時まだブックオフが1店舗しかなかった頃の坂本孝前会長でした。それ以来、お付き合いが始まり、同社が上場された時にも出資をさせていただいて、私はブックオフさんの社外役員をやらせていただいたんです。
財部:
はい、はい。
増田:
坂本さんの所の古本、うちの新刊書ってことで商品が関係していることもあり、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(以下、CCC)のことを勉強されたいということで、フランチャイズで『TSUTAYA』をやって頂いたんです。そのときの責任者が佐藤社長。その頃からお付き合いですから、もう8年ぐらいになりますね。
財部:
そうですか。
増田:
長年のお付き合いで、今もブックオフさんの社外役員をやらせていただいています。そういった関係もあり、それで彼が(今回のインタビューに)僕を指名したんじゃないですかね。付き合いは長いですよ、彼がマッキンゼーからブックオフさんに入社された頃から、僕は知っていましたから。
財部:
長いお付き合いの中で、佐藤さんは変わりましたか?
増田:
佐藤社長は「環境やタイトル(肩書き)は人を成長させる」、の見本のような人で、もう、がらりと変わりましたね。
財部:
頭で仕事をするコンサルタントの世界から、いきなり現場に出てリアルな世界に飛び込んだ。しかも圧倒的な責任を持たされましたよね。佐藤さんのお話を聞いていても、その変化感っていうのは伝わってくるものがありました。
増田:
自分のやりたいことを突き詰めていくと、敵も出てくるし、問題も生じる。でも、そこにニーズというものが生じてくるのであって、まさにそれを解決していくプロセスこそが、自分を高めていくプロセスだと思います。だから、(他人が)「こういう場合はこう」というノウハウをたくさん教えるより、本人に考えさせた方が、人は成長するものです。その典型がまさしく佐藤社長そのものだと思います。
財部:
そうですよね。
増田:
仮に「上場会社の社長になるには」とかいう講義があって、それを1年聴いたところで、佐藤社長のように成長はしません。やはり株主総会に出て、みずから壇上に立ってクレームに耳を傾け、それに答えて叱られて、というプロセスの中で経営者は育っていくものです。
財部:
「みずから考え、成長させる」というのは、CCCにおける教育方針そのものなのでしょうか?
増田:
そうですね。基本的に、「企画を作るにはこうしたらいい」と教えられるものではなく、企画とは自分で考えるもの。したがって、自分で考える癖をつけなければいけませんから、社員皆が、ある種の「自立心」を持てるような組織を作りたいと思って経営してきました。
「企画」を生業とするからこそ、「自由」を旗印に掲げる
財部:
自立心ですか。
増田:
よく多くの企業は「自社のビジョンやミッション、価値観を共有しよう」、というようなことやりますよね。僕らも、何年か前にそんなことにも取り組みました。それも大事なのですが、企画はやはり自分で考えるものなんです。だから自分の頭で考える癖をつけないといけないなって、僕は思ったんです。
財部:
ええ。
増田:
だから僕は従業員たちに、「会社として一番大事にするものは自由だ」って言いました。自由を旗印にする会社なんてないでしょ。これはいいなと思いましてね。
財部:
そうですね。(笑)
増田:
あと、もう1つ話したのは、報告や連絡、相談とか、そんなものが一切ない組織にしたいということ。これはね、僕自身が嫌いなんです。報告をするのも、命令されるのも嫌い。(笑)。報告や命令で動くような組織なんてつまらないじゃないですか。だから、そんなのわざわざ自分たちで作るのはやめようよと言ったんです。
財部:
それは、なかなか勇気がいることですね。
増田:
そこは社内的にも社外的にも、なかなか理解されないところなんです。僕は、やはり企画というものを生業にしていきたいんです。でも今、「CCCって何?」と聞かれたら、皆が「TSUTAYA」って言うでしょう?これだけではダメなんです。
財部:
増田さんとしては、企画こそがCCCの最大のコンテンツであり、それが事業そのものであるという考え方で、『TSUTAYA』のビジネスはその中のひとつということですよね。
増田:
はい。
財部:
そういった話を伺うと、ポイントカードの世界に『1ポイント』というものを持ち込んだのは、企画の勝利以外の何者でもないと僕は思います。あれは分かりやすい姿ですよね。
増田:
はい。TSUTAYAに続く第2の企画作品です。
財部:
そうですね。しかし増田さんご自身の言葉で、「企画をエンドレスに出し続けることが一番難しい点である」とおっしゃっていて、その原因は経営にあるとされています。「優秀なその若手が出してきたアイディアが、従来の常識を覆している場合、経営陣が理解できない、という恐ろしい限界点がありえる。それを超えるために、絶えず自己否定をしなければいけない」、というお話をされています。僕は、そういう考え方はとても素晴らしいと思いつつもですね――。
増田:
じゃあ、一体、どうするの、と(笑)。
財部:
そうです。それをどうやって乗り越える?のということが、一番のポイントだなと思ったんですね。
増田:
「企画は辺境から生まれる」というじゃないですか。
つまり、企画はやってみなければわからないから、まずは失敗してもいい。要は、成功するなんて思わないことです。
財部:
ほう。
増田:
やる前は誰にも何もわからない。でもやってみれば、なにがしかの成果が出ます。その成果は凡人でもわかるんです。だから結局のところ、やるしかないんです。したがって、企画をやる前にいろいろなことを言ったって、本当のところは理解されないと思うんです、僕は。
財部:
そういう自由な社風の中で、この企画をやりたいと、社員がどんどん手を上げてくるわけですよね。その際にはやはり全員にやらせるんですか?
増田:
それについては、「あるべき姿」と「実態」という2つの面があると思いますが、「実態」は皆、コンサバティブなんだよね(苦笑)。
財部:
そうなんですか?
増田:
本当は、もっと世の中に役立つ企画をどんどんやって打ち出していくべきなのに、「企画会社とはどうあるべきか」ということよりも、現状を維持することにエネルギーが働いてしまう。その意味では、財部さんが今おっしゃったように、新しい企画を生み出していく部分については、仕組みがまだできてないかなと思います。
財部:
うーん。
増田:
僕が、なぜ企画会社を作ったかについては、何かでご覧頂いたことはありますか?
財部:
拝見しました。
増田:
ぜひ、このお話をしておきたいんですが、僕はもともと婦人服の鈴屋さんにいました。そして、僕が最も影響を受けた方が、ライフスタイル・プロデューサーの浜野安宏さんです。彼が書いた『ファッション化社会』(ビジネス社)という本の中に、「すべての商品がファッション化し、すべての商品がデザイン化される」という一節がありました。僕が青春時代送った頃は、テープレコーダーにしても、機能だけで売れていたんです。ところが、そこにデザインというものが入ってきて、単なるテープレコーダーよりも、デザイン化されたテープレコーダーが売れるようになってきた。
財部:
はい。