少子高齢化だからこそ若年層の顧客をつかむ
株式会社マツモトキヨシ代表取締役 社長 松本 清雄 氏
財部:
今回ご紹介いただいたユニ・チャームの高原社長とはどういうご関係なのですか?
松本:
取引先という部分での接点が一番大きいですね。おそらくドラッグストアの取引額で最も大きいとか、若いという理由でご紹介いただいたのだと思います。私が創業家の出身だということもあるかもしれませんね。
財部:
私はある意味で、オーナー経営が再評価される時代を迎えていると思います。「あそこは同族だ」と、何となく悪い意味で言われることがよくありますが、ここ10年、15年を見ていると、結局オーナー経営者にしか改革できないだろうと思われる数多くのことがありました。伝統的な大企業の中ではなかなか変えられないことも、オーナー経営者だからこそ改革できる。責任の感じ方も違うでしょうし、裁量権も大きいという面があるのかもしれません。
松本:
逆に、極端な話をすれば「壊してしまってもいい(これまでの成功体験にとらわれず、良いことは継続し、改めるべきことは改めること)」という考えはあるのかもしれません。人のものは壊してはいけないですが、自分の家にあるものだったら壊れても(つくり直す)仕方ないとう考えもあるかもしれません。会社経営の中で、今までやってきたことを「壊す」というのは、創業家だからこそできるのかもしれないですね。
財部:
2期6年あるいは8年で社長交代という人事を粛々とやっている大企業もありますが、2期務めたら社長はおしまいということになると、自分の任期中にはなるべく問題がないようにしたいと思うでしょう。任期を2年ぐらい残して大きなことに取り組もうと考える人はあまりいませんし、残り1年で改革に取り組むのははた迷惑な話で、次の社長にしてみれば「勝手に決めておいて、その役割を自分が負うのか」と感じる部分もあります。その意味でサラリーマン社長による経営は、非常にオープンで良い部分と、言葉を返すと無責任になりかねない部分の両方があります。他人のものは壊してはいけないというのも、大切なモラルではあっても、ある部分を超えては踏み込まないことの裏返しでもありますよね。
松本:
そういう意味で(オーナー経営が)良いと言われる部分もありますが、逆に言えば、外から何も入ってくることができないという意味で、悪い部分もあると思います。
もう一度若い人を集められるマツモトキヨシに変える」
財部:
私が非常に興味を持っているのは、松本社長が至るところで「もう一度若い人を集められるマツモトキヨシに変える」とおっしゃっていることです。世間的には、少子高齢化でドラッグストアが成長するとみられていますが、ここでまた若い人を呼び込むことの真意はどこにあるのでしょうか。
松本:
若いお客様がマツモトキヨシでお買い物をしていただけるようになることが入り口になると考えています。ご高齢や何らかの理由でお客様がご来店できなくなったりした場合、代わりに買い物に行かれるのは誰かというと、それは入り口となる若いお客様だと思います。マツモトキヨシでは、この世代のお客様にファンとなっていただき、皆さんが年を重ねても、常に入り口となる若い世代の方々が、ご自分のお買物とともに、介護用品や薬などを買いに来てもらうという取組みをどんどん進めていかないと、今後の変化に対応できない、あとにつながらないと感じたのです。
財部:
なるほど。
松本:
顧客データを見ていると、当社が急成長していたのは今から約15年前。当時、中高校生だったお客様が今は主婦になり、その(年齢)層(の割合)が高くなっています。若い人が減っているということは、約15年前に中高生だった人たちがスライドしただけで、新しい若年層のお客様が増えていないということです。ここもまた取り組まなければ、10年、20年先には駄目になってしまうと思いました。他の小売りさんは、これから高齢者に力を入れていくと言っています。(当社もそこに)力を入れないわけではありませんが、小売業として、そこだけに注力するのではなく広い視野を持って取り組まなければならないと思います。
財部:
マツモトキヨシは、同じことはやらない。
松本:
はい。高齢化社会が来るとわかっていれば、メーカーさんがその研究・開発などをいろいろやってくれるので、それに乗れば良いと思います。逆にメーカーさんは、若年層は少なくなるからと言ってあまり力を入れません。だから人が増える部分をお願いしておいて、人が少なくなる入り口の方を当社のファンにする作業を、自分たちでやっていくのです。
財部:
小売業と商品を供給する製造業との立ち位置を、マーケットに合わせて上手に考えていくということですね。
松本:
皆でこう(高齢者のことばかりを)一生懸命考えていたら、若年層のことを考える人が誰もいなくなってしまいます。当社ではそのような年齢層の方との接点を獲得するという意味で、LINEなどにもいち早く取り組んだのです。
財部:
SNSは非常に効果が出ているというお話もありましたが。
松本:
そうですね、今LINEの当社公式アカウントだけで870万人を超える登録者がおります。若者向けに始めたのですが、現在では親子で利用しているケースも多いので、結果的に売上としては(若年層とそれ以上の層)両方が取れています。
財部:
15年か20年前に御社が銀座や六本木に出て行かれた頃、マツキヨが流行語になり、マツキヨで買い物をすることが若い人たちの間でブームになっていましたね。実際、マツキヨが世の中に出てきた最初の頃には、「こんなものも売っているのか」というわくわく感があったのは間違いないと思うのです。そのうち競争が激しくなってきて、ドラッグストアという言葉はすっかり一般名詞化しました。でも昔は「マツキヨに行く」というのが「ドラッグストアに行く」のとほとんど同じ意味合いを持っており、若社長である松本社長だからこそ、マツキヨの原点の部分を取り返しに行くのではないかと思いました。
松本:
それはあまり考えていません。顧客データを見ると、若年層である入り口部分が全然つかめていませんでしたし、10年先のことを考えると、今30歳のお客様は10年後には40歳になります。入り口部分が続かなければ、これから高齢化とともに、年齢層がシフトしたお客様の売上を取ろうにも、商品を買いに来てくれる若い人たちがいなくなってしまいます。高齢者の方々に「薬を買ってきて」と頼まれた時、(若いお客様に)うちに来てもらえなければ、いくら高齢化社会といっても意味がありません。
財部:
SNS的なツールで若い人を取り込もうということは、多くの人がさまざまなアプローチを通じて考えていると思います。でもその先に店舗自体にも、若者が来たいと思うような魅力や発信がなければ弱いと思うのですが、その辺はどうリンクさせていくのですか。
松本:
リンクというより、基本的に商品部の方で、若い人が好むようなものや珍しいものを探すようにしています。たとえば化粧品ですよね。うちの場合は女性客が圧倒的に多く、化粧品の売上構成比は4割近くを占めていますから。
財部:
そうすると、化粧品が顧客を引きつける「マグネット商品」になるわけですね。
松本:
はい。それから奥様が買い物に行かれると、自分のシャンプーは高付加価値なものを買い、旦那さんには安価な物を買ってこられたりすることもあります。(笑い)
財部:
あとは娘さん。自分専用のものをいくつも買ってきて、他の家族には使わせないという話になりますね。
松本:
そこが当社の強さでもあると思います。うちでは男性化粧品を置いても、女性のお客様が多いので、男性の代わりに女性に買っていただく代理購入ということを意識して売場展開をしておます。
財部:
これは(化粧品がマグネット)同業他社でも同じ傾向ですか、それとも差が出るものなのですか。
松本:
差が出ていると思います。郊外などで展開する元気な企業は食品を強化しているところが多いですね。われわれは都心部ではわりと強い商売をしていても、逆に郊外の方に行くと、他社とそれほど変わらなくなってしまうかもしれません。
財部:
その理由はなぜなのでしょうか。わかるようでわからないところがあります。都市型、郊外型もありますが、それはもう商品の品揃えの問題ですか。
松本:
品揃えの問題と、あとはずっと1番だったという驕りがあって、あまり研究してこなかったと感じています。同業他社は都内に入ってくることができなかったぶん、郊外で戦い、研究を重ねて今の形になっています。その部分について(当社は)は、やはり化粧品が強いとか、医薬品が強いというだけで、ずっと驕りを持ってやってきた部分はあると思います。
財部:
家電量販店の世界でも、地方から出てきた会社がメジャーになり、首都圏で展開していた会社が(シェアを)食われてしまうことがありますが、ある意味で今の話に重なる気がします。驕りとおっしゃっていますが、同時に何となくできあがってしまったモデルがあって、それをなかなか変えられないということも、かつて成功を収めた会社にはあるのだろうと思いますね。
松本:
都市部は絶対客数が多いですが、郊外にいくとそれが減るわけです。都心で成功したやり方を郊外に持って行っても成功しません。店舗の設計も、都市部と郊外で少し変えていますが、その地域に何が必要かということに気づかないまま、ずっと同じ形で続けてきた面があったと感じています。
財部:
私は先日インドに取材に行きました。今インドでは、パナソニックとソニーが非常な困難な中でビジネスを展開していますが、両社ともまったく違うやり方で驚くほどの現地化を遂げています。パナソニックは、あのサムスン、アップル流で、中国でもインドでもOEMで製品を作り、日本の本社がノーと言っているのにパナソニックブランドをつけて低価格で売っている。一方ソニーは、本社のものづくりはすっかり駄目になっていますが、インドの現地法人の社長は「ソニーのDNAを捨てない」と言い、日本で売っているテレビやスマホをインド人の好む画質やテイストにチューニングし、高い値段で売っているのです。問屋を使わず、社員ができるだけ自分で売りに行く。社長自らも可能な限り売りに行くという、ソニーとは思えないようなどぶ板営業を展開しています。インドで頑張っている2人のライバル会社の社長は、まったく違う筋道ですが、両方がインドの市場にピタリとはまっているわけです。
松本:
昔のA社さんとS社さんのようですね。
財部:
まったくその通りです。それを見ていて、日本企業はマーケットのニーズを本当にきちんと吸い上げてビジネスを展開しているのか疑問に思いました。何となくデフレのせいにしたり、安倍政権が良いとか悪いとか言って環境のせいにして、お客さんを呼び込むための仕組みや品揃えを本当に整えてきたのだろうかと、インドに行って私自身が反省して帰ってきたのです。今日こちらに来る前も、松本社長の記事をいろいろ拝見し、少子高齢化で商売をするのではなく、若者だという点に非常に共感を覚えました。
松本:
小売業でも皆さんが高齢者、高齢者と言っていますが、そこで戦うのが1番厳しいですからね。逆に、数の少ない若者をターゲットにする人はなかなかいません。結局、扱っている商品も、若者からお年寄りまで全てのお客様が使うものなので、広い年齢層のお客様をしっかり掴むことが、たぶん強いのだと思います。