携帯ポータルサイトのドミナント・プレーヤーを目指す
株式会社DeNA代表取締役社長 南場 智子 氏
財部:
今回ご紹介いただいたレオス・キャピタルワークスの藤野社長とは、どのようなご関係なんですか?
南場:
ビジネス上のつながりはまだないんですが、私たちがまだ小さな会社の頃から、藤野さんには時々ご相談させていただいています。また藤野さんからは、いろいろな方をご紹介していただく方がいたりして、時々お会いしているんですよ。
財部:
それは、プライベートでのお付き合いということですか。
南場:
そうですね。ほとんどプライベートです。飲みに行ったこともありますし、カラオケにも行ったことがあります。DeNAでは新卒リクルーティングの一環として、やる気のある学生を集めて「アントレプレナー講座」というセミナーを行っていまして、そこで、最初に藤野さんに講演していただこともあります。
財部:
僕は今日お伺いするにあたって、改めてDeNAさんの資料をいろいろと拝見しました。そこで思ったのは、会社とは、起業してから発展していくプロセスそのもので、起業すること自体は難しいけれど、起業で成功することは、まあできなくはない。そこそこ成功して、その中から何社かは頂上にも到達できます。ですが、企業が最初に手がけた本業が、必ずしも理想型であり、持続可能なビジネスであるという確率は低いですよね。
南場:
そうですね。
財部:
ほとんどの会社はスポット的に、自社のビジネスが世の中にマッチングした時点で、すぐに上場してしまう。だから上場した頃はお金も手に入るんですが、本当はそこからが勝負だということになりますね。
南場:
はい。
財部:
DeNAさんは、最初に「ビッダーズ」(オークション&ショッピングサイト)を手がけ、それから「モバオク」(携帯オークションサイト)に入っていきますよね。そしてさらに携帯ポータルサイトの「モバゲータウン」(ケータイゲーム&SNS)とつながっていくんですが、その過程で、南場さんが一番苦労されたことは何ですか。
南場:
「ビッダーズ」は、意地でも黒字にしようと思っていたんです。ところが「ウィナー・テイクス・オール」という言葉があるように、この分野では1位以外はなかなか生き残れないといわれていたので、「絶対に1位になる」ことを目指していました。ところがその途中で、それは無理だと思うに至りました。しかしチャンスは2回ぐらいあって、「Yahoo!」が(オークション出品者が支払うシステム使用料を)値上げしたときに、われわれは怒涛の攻めを行ったんですが、それでも結局、「Yahoo!」を抜くことはできませんでした。とはいえ、なんとか黒字にしなければということで、2002年と2003年は黒字になりました。
財部:
そうですか。
南場:
ただ、本当に辛かったのは、ベースとなるユーザーがなかなかついてこないということでした。要するに「Yahoo!」あるいは楽天ではなくビッダーズを使うというユーザーが、なかなか爆発的にヒットしない。そのヒットしない商品をなんとか黒字にしなきゃいけないというところ、ですね。システム開発の失敗であるとか、エピソードはいろいろなところで語っているんですが、やはり一番の重石(おもし)というのはそれですね。
財部:
それは逆に言うと、南場さんの場合、ある意味で「始めた以上、やるしかない」という言葉と対照的に、「始めたら、そこからなかなか活路が見出せない」というのが、「ビッダーズ」さんですよね。
南場:
そうです。
財部:
そこから抜け出すためのプロセスというのは、どうお考えですか。
南場:
モバイルに軸をシフトしたっていうところから、当社は非常に変わってきました。ところが当社と同じタイミングでモバイルをやっていた会社はたくさんありますし、それだけ厳しい戦いの中で当社が負けないのは、ありとあらゆることをやってビッダーズを黒字にしたプロセスで相当組織の力がついたからだと思います。IT系で「雄」と呼ばれているいくつかの企業よりも、DeNAの方が底力では上だと私が自信を持っているのも、この「ビッダーズ」の苦労のお陰なんですよね。
財部:
なるほど。
南場:
それから、ビジネスの手法はドラスティックに変えてはいても、きちんと物事をやり抜くということが、この会社のノーム(〈英〉norm:規範)としてしっかりできています。実際、モバイル事業を始めてから、社内における開発のやり方などを相当に変えました。
財部:
そういうお話を聞いて思うのですが、ITベンチャーに限らず、企業が一度上場して利益を得たあと、人が結構異動してしまい、それまでしっかりまとまっていた組織が分散してしまうことも、よくある話ですよね。
南場:
ウチは他社と比較すると、そういうことは極めて少ないですね。ただ私はストックオプションを、(会社立ち上げの頃)給料が払えない時に優秀な人を引っ張ってくるための道具として使っていたので上場の際、ストックオプションが誰にどのぐらい、という固有名詞が出たときに、社内で「なぜ、あの人があんなにもらっているの?」という話になったわけですよ。
財部:
それは、結構きついものがありますね(笑)。
南場:
そうなんです。それで社内が少しざわついた時期はあったんですが、その影響で会社を辞めた人はほとんどいません。それから時期は違いますが、当社を辞めた人が他社を見て、以前とは違う視点でウチを選び直して、戻ってきてくれたりすることもあるんです。
財部:
やはりね、新しく会社を立ち上げていく時というのは、経営者はどこも優秀なんですよ。そうでなければ、会社は立ち上がりませんからね。ところが、最終的に組織の「器」を決めるのは、そこに連なる経営陣です。その意味でDeNAさんの経営陣は、非常に驚くべきレベルの高さですよね。
南場:
運がいいだけです(笑)。でも本当に、そこは恵まれていますね。
財部:
今日は運ではなく、その理由を伺おうと思うんですが――。今日僕は、DeNAさんの組織図を、わざわざプリントアウトしてきています。普通なら、こんなことはしないですよ。それからDeNAさんのサイトに、役員のプロフィールが顔写真入りで出ていますよね。
南場:
そうですね。
財部:
逆に言うと、これだけ役員の実名を写真入りで、細かいキャリアや学歴を含めて載せているところに、僕はDeNAの発展を象徴するものがあると思っています。なぜ、このようにされたんですか。
南場:
それほど深くは考えていないですけが、なるべく紹介したい、というだけですね。わが社の経営陣はこのメンバーです、と。なるべく多くの人に顔を見てほしいですから。
財部:
なるほど。最近の日本の風潮では、社長や役員の写真も出さない、学歴もあまり言わないというように、どちらかといえば個人という要素を消していく風潮があるわけです。これに対し、DeNAさんの役員紹介ページは全面的に個人を出していく格好になっています。これはおそらく最初から、南場さんが会社を作っていくにあたって、きちんとした考え方をお持ちだったんだと思うんですが、違いますか?
南場:
それはそうですね。人材の質という面では非常に妥協しない組織に、もともといたものですから。
財部:
そうすると、そこに矛盾が生じるじゃないですか。最初は会社にお金がない、だから優秀な人を集めるのが難しいというように。そこをどうやって埋めていったんですか?
南場:
そうですね。当社のことを「面白そうで、何かできそうな会社だ」とまず思ってもらうことですね。それから、あとは「レベルの高い人と一緒に、切磋琢磨して仕事をしたい」と思う仲間が集まってきましたよね。
財部:
初期のメンバーは、すぐに集まったんですか?
南場:
はい。最初は私と川田(人事管理部長)の2人でやっていましたが、そのあと渡辺(企画グループ)というマッキンゼー出身の優秀な若手が入ってきて、今度は彼らがまた1人ずつ、優秀な人を連れてきてくれたんです。
財部:
何かお話を聞いてると、『里見八犬伝』ではないですが、次から次へと仲間が集まってきたような雰囲気ですね。
南場:
そうですね。