「お母さんのための保育所から子供のための保育所を目指す」
アートコーポレーション株式会社代表取締役社長 寺田 千代乃 氏
「女性活用」を言っているうちはダメだということです
財部:
日本生命の岡本会長とはどのようなご関係なのですか。
寺田:
元々はニッセイの評議委員をやらせていただいたこともあったのですけど、岡本さんは関西経済連合会の副会長をなさっていまして、私もその中におりますので、その関係と会社と両方のお付き合いですね。
財部:
岡本さんは大変几帳面な方ですね。
寺田:
ものすごく細かいことに気が付かれる方です。女性は細かいとよく言われますけどあれは個性ですよね(笑)男性でもすごい気が付かれる方がいますよね。
財部:
ご自身の体験したこと、訪問したお城や神社仏閣など、何冊にもわたって細かくノートに記録していらっしゃいました。
寺田:
拝見しましたけど、あれだけ書かれているということは、頭の中やポケットに一杯知識が入っているということだと思うのです。会合で意見をおっしゃってもいろいろな言葉がでてこられます。そして、あのマメさにはびっくりしますね。
財部:
さて、アートコーポレーションさんと言えば、「ゼロ、イチ、ニ、サン」というアート引越センターのコマーシャルソングが有名です。あの曲を知らない日本人はそういないだろうと思いますが、あれはどういう経緯でできたのですか?
寺田:
0123というのは、もともと「寺田運輸」という主人が興した小さな運送会社があったのですが、そこから独立して仕事を始めたときに偶然にもらった電話番号だったのです。
財部:
あの番号は偶然だったのですね。
寺田:
そうなんです。その時に1919という番号も一緒に来たのですけど、じつはこちらのほうが「引越しにいくいく(1919)」で語呂が良いねと当初は言っていたのです。でも、0123というのは、1からスタートじゃなくちょっと下がってゼロからのスタート。起業して本当にゼロスタートという感じでしたので、0からのぼり番号で123というのは良いね、というところからスタートしたのです。
財部:
あのコマーシャルソングは社長が作詞作曲されたのでしたよね。名作ですね。でも、どんなに偉大な音楽家も大ヒットした曲はなかなか越えられないというものがありますね。
寺田:
そうなのです。ですから一本目は良かったのですけどね、あとがね。うちのコマーシャルは200本程ありますけど(その後は)大変でした(笑)。あとは「アート引越センター」という名前ですが、当時、物流会社でカタカナの名前というのは無かったのです。それも画期的だったと思いますね。
財部:
社長の過去のコメントを拝見して、すごく印象的だったのが、つねに女社長と呼ばれることに対して、寺田社長は終始一貫「女も男もなく、あるのは個性です」とおっしゃっています。安倍政権もそうですが、「女性活用だ」「女性の社会進出だ」という声は年々高まっていますが、それを言っているのは、大抵が男性です。当事者である働く女性達の声があまり聞こえて来ません。このような現状を寺田社長にはどういう風に見ているのかお伺いしたいと思って来ました。
寺田:
「女性活用」とわざわざ言うこと自体、まだそれが出来ていないということですよね。私自身、今年で(社長として)37年目に入ったんですけど、最初はどこに出ても、活字になっても、どんな方とお会いしても、「あ、女性社長ですね」と、必ず頭に"女性"が付いていました。財界でも関西経済同友会の代表幹事をした時にも、初の財界女性と言われました。
財部:
大変話題になりました。
寺田:
そのあたりまでは「女性」が当たり前についていましたが、その後だんだん無くなってきました。女性が世の中で活躍したり、働いたりするのが当たり前になってきたのだなと思います。働くチャンスがあれば働きたいという女性にはどんどん社会進出してもらって良いと思いますね。しかしそれは受け入れるところがあるという事が前提ですから、無理やり「女性活用」というのは、いかがなものかと思います。
財部:
僕が長く取材をしている会社で、女性管理職を作りたいと、いつまでに何人と目標をつくっている会社があるのですが、毎年、達成出来るの、出来ないのと。こういうのは何か違うような気がします。適任の女性が不在ならしかたがない、反対にいれば、目標人数などに関係なく、どんどん管理職にしてしまえば良いと思うのです。
寺田:
そうですね。ですから、政府の方や政治家の方がお見えになられた時に必ず言うのが、「これは数値目標をつけるものではないですよ」ということです。まずは、頑張っている女性に失礼だと思います。もうひとつは企業活動というのは本当に真剣勝負ですから、会社に必要だと思う人がいれば、女性であれ、男性であれ役員になって頂いて、経営のマネージメントの一角を担ってもらうというのは当たり前の事だと思います。ですから目標達成の為に下駄を履かせるということは、まあ下駄履きも良いじゃないかと意見もありますけど、やはり圧倒的に男性が多い世界ですから、下駄を履いて入ったということになると後で本人がつらくなります。そんなことをしなくても、本当に力がある人は男性でも女性でもそれなりに評価されていくと思うのです。
財部:
そうですね。
寺田:
今、私が社外取締役をしている会社で、女性役員がまだおられないのですが、でも、私の姿を見ることで女性が後に続いてくれたらいいと言われたのはもう10年前の話です。特別な数値も設けてないのでまだ女性で役員になった方がまだおられないのですが、本当に頑張っている人は、目を開けて見ていればみんな気が付くはずですよね。
財部:
と言う事は、取締役になるに値する人がいないのか、または社会的に女性の出世を阻むものがあるのか、どちらなのでしょうか。
寺田:
女性の場合はやはり家庭を持たれます。子供さんが出来て、ご主人がいらっしゃる。女性に対する雇用機会均等法以外の意味での女性活躍の場があって良いと思うのですけど、大事なのはやはりご主人、パートナーの協力だと思います。会社のトップマネージメントに入っていこうと思うと、決まった時間に出勤して決まった時間に帰るとか、付き合いもありますから土日の休みとかは、日本の企業社会においてはまだまだ難しいと思うのです。ですから家族の理解、協力が重要になってくると思います。
財部:
寺田社長はご主人と二人で会社を起されて、寺田社長がずっとトップをやっておられます。いくつかインタビュー記事では「自分は良いパートナーに恵まれた」とお答えになっていて、そういった役割分担というのは、ご主人と話し合って決められたのだと思いますが、実際はどういう風にされたのですか。
寺田:
おっしゃる通りです。話しあって決めたわけではないのですが、それぞれの得意分野といいますか、領域がなんとなく決まってきました。最初は社員も少数でしたので、いろいろやることになります。すると、これは得意、これは不得手ということが見えてきます。そんな中でお互い、この得意分野を受け持っているという意識が、暗黙のうちにできあがっていったと思います。そして、夫婦といえども、お互いの領域には土足で入っていかないというマナーは持っていたと思います。いつのまにかそういう風になっていました。もうひとつは私たちには同じ夢や目標がありました。ですからその目標に向かう事以外にエネルギーを使いたくないよね、ということを共有していたと思います。