ベトナム・ハノイ。日本から進出した製造業の取材をするためにやってきた。ハノイの中心にあるホアンキエム湖の北側。ビルの3階にある「Highlands Coffee」のテラスから交差点を見下す。取材の合間の休憩時間。コーヒーを飲みながら30分程眺めていたがまったく飽きなかった。自動車やオートバイ、人力車が思い思いの方向へ向かって移動していく。どこからともなく現れては、消えていく。「みんないったいどこに向かっているのだろう」外国で取材中、このようなことを考えるはとても楽しい。工場での早番勤務が終わって帰宅する途中か。夕飯の買い出しに向かっているのか。学校に子供を迎えにいくのか。人々の生活について思いを馳せてみる。目的地に向かってベトナムの道路という道路を若者たちが埋め尽くす。昼夜問わずこの移動が止まることはない。平均年齢28歳のベトナム。人口8000万人のベトナム。ベトナムの活力にはいつきても圧倒される。違和感。なにかが違う。すぐにわからなかったが、はっと気が付いた。そうだ、この交差点には信号がないんだ。通過していく乗り物の速度はそれぞれまちまちだ。しかし、そんな秩序が無い流れの中で、確実に自分の進路を確保しながら渡っていく。その流れはとどまることなく続いている。きっと、今この瞬間も。 ハノイの空。排気ガスで少々濁った空気の中。成長するハノイの、いずれ消えて無くなってしまうであろう風景を探してシャッターを切った。その一方で信号なんて無ければないでなんとかなるのか、ということも知った。(内田裕子)