TAKARABE
JOURNAL本質を捉える視点

トランプ大統領就任演説を読んだか?(前編)

トランプ大統領の就任演説はこんなフレーズから始まりました。
The golden age of America begins right now.
「アメリカの黄金時代がいますぐ始まる」
なぜ彼は“黄金時代”などという時代錯誤の大言壮語を語ったのでしょうか。それは単なる比喩ではありません。米国はリアルに「黄金」を手に入れて豊かな国になれる可能性があります。なおかつその「黄金」は大統領選の最大の争点となったインフレ撲滅にも効果を発揮し得るとトランプ大統領は底から考えています。パリ協定からの離脱を決め、自国の天然ガスや石油を「掘って掘って掘りまくれ」と日本国内で伝えられ、大きな反発を招いた文脈があります。しかしそれはメディアお得意の「切り取り」であり、その政策意図も経済効果も伝えていません。では該当箇所を引用します。*英文、日本語訳とも1月21日付け朝日新聞より
Next, I will direct all members of my cabinet to marshal the vast powers at their disposal to defeat what was record inflation and rapidly bring down costs and prices. (Applause.)
全閣僚に対し、記録的なインフレを打破し、迅速にコストと物価を引き下げるためにあらゆる力を結集するよう指示する。
The inflation crisis was caused by massive overspending and escalating energy prices, and that is why today I will also declare a national energy emergency.  We will drill, baby, drill. (Applause.)
インフレ危機は、膨大な過剰支出とエネルギー価格の高騰によって引き起こされた。だからこそきょう、国家エネルギー緊急事態を宣言する。われわれは(エネルギー資源の)採掘を行う。採掘だ。
America will be a manufacturing nation once again, and we have something that no other manufacturing nation will ever have — the largest amount of oil and gas of any country on earth — and we are going to use it. We’ll use it. (Applause.)
米国は再び製造国になる。他の製造国が持ったことのない、どの国よりも大量の石油と天然ガスを持っている。それを活用する。
We will bring prices down, fill our strategic reserves up again right to the top, and export American energy all over the world. (Applause.)
(石油)価格を引き下げ、戦略備蓄を最大にまで補充し、米国のエネルギーを世界中に輸出する。
We will be a rich nation again, and it is that liquid gold under our feet that will help to do it.
米国は再び豊かな国になる。その実現を助けるのが足元にある黄金の液体だ。
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 米国は長らく石油・天然ガスの世界最大の消費国であり、世界最大の輸入国でした。だからサウジアラビアをはじめとする中東の産油国からの安定供給をはかるために巨額の資金と軍隊を派遣してきたのです。中東和平は米国のエネルギー安全保障上の眼目です。しかし2005年に米国の地下深くに存在していたシェールガス・オイルを掘り起こす技術革新が起こったことで、米国は世界最大の産油国に変貌する期待が高まりました。私は2013年にテレビ東京『ジパング』でシェール革命をテキサスの採掘現場を取材しています。米国から初めての日本へのシェールガスの輸出基地キャメロンも訪れました。そして2014年には単行本『シェール革命』(実業の日本)まで出版しましたから、トランプ大統領の言い分は誰よりも実感をもって理解しているつもりです。
 インフレの原因を特定することは容易ではありませんが、政府の過大な支出とエネルギー価格の上昇が大きな要因になっていることは間違いありません。だからトランプ大統領はエネルギー価格を劇的に下げるために、シェールガス・オイル等を最大限活用することでインフレを抑え込むと宣言しているのです。drill, baby, drill はそうデタラメな話ではなく、イーロン・マスクが小さな政府を志向するコストカッター役をになうのも米国民がもっとも望んだインフレ対策なのです。またシェールガス・オイル掘削に関して言えば、それがただちに炭素排出量が増えるわけではないという米国のエネルギーの消費構造もあります。<続く>
🔴ハーベイロード・ウィークリー1377号から転載