TAKARABE
JOURNAL本質を捉える視点

感動のパリ五輪陸上男子100m

緊張で心臓が破裂するのではないかと思うような場面が人生には幾度もある。過去を振り返った時、ダントツのシチュエーションは中学時代の陸上100mのレース直前である。たかが中学生の競技経験だが、それを超える緊張感を味わったことはない。11秒5で東京代表となり、国立競技場で開催された全国大会にも出場した。100mは一瞬の出遅れがレース全体に決定的な影響を及ぼす。誰かの姿がほんの僅かでも視界に入った瞬間、りきむ。余分な力を抜こうと脳は高速でフォームの修正を試みるが、その時はもうゴールしている。
パリオリンピックの陸上100mでは米国のノア・ライルズ選手が最後尾から8人を抜きさって優勝した。タイムは9秒79。自己新記録である。世界一のスプリンターが爆発的なフィジカルを持っているのは当然だが、同時に繊細な神経をコントロールする卓越した術も備えていなければ戦えない。
高校生になった時、陸上競技はさっさとやめてラグビーを始めた。スポーツはこんなにも楽しいものなのかと初めて思った。一緒に戦う仲間がいるだけで、孤独にメンタルをすり減らすことがなくなったからだ。
そんな原体験を持つ私から見るとパリオリンピックの100m決勝はただただ仰ぎ見るばかり。ノア・ライルズ選手へのリスペクトが止まらない。